2020年3月30日月曜日

【裁判傍聴記】自分の子供に手を挙げるのは必要悪、自分も親にそうされて育てられた

被告人は、5歳の次男が夜10時になっても寝ないことに腹を立て、家の外に放り出しました。次男が隣の実家に逃げ込んだため、被告人は実家の土間で足首を掴んで倒したうえ地面を引き摺って連れ戻し、次男に打撲傷と擦過傷を負わせました。泣き声を聞いた近隣の住民から市に連絡があり、市役所が警察に通報した結果、被告人の傷害行為(児童虐待)が発覚し逮捕に至りました。被告人は前年に6歳の長男に対しても虐待行為を行っていました。

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資料画像(Pixabay)


罪 状 傷害罪(児童虐待)
被告人 30代後半男性
求 刑 懲役1年6月

この事件は最近よくニュースに取り上げられている、実子に対する「児童虐待」に関する事件でした。被告人は、自身も父親から叩かれて育ってきて、非行にも走ることなく真っ当に育ってきたので、子供に手を挙げることは躾にとって必要悪だという考え方でした。


事件の概要

令和元年10月〇〇日夜11時頃、被告人は5歳の次男が夜遅くになっても寝ないことに腹を立て、次男を家の外に放り出して鍵を掛けました。次男は隣の母屋に住む被告人の実父母の家に逃げ込みました。実母が次男を泊まらせると言ってきたことに対して、実母と仲の悪かった被告人は更に腹を立て、母屋に怒鳴り込みました。玄関で実母と口論の末、玄関にあった滑り台を投げ、次男を叱責したうえ、上がり框で次男の片足の足首を掴んで次男を倒し、そのまま片足を掴んでズルズルと引き摺って自分の家に連れ帰りました。翌日実母が次男を病院に連れて行ったところ、右腰部と右足に打撲と擦過傷で加療8日間の診断を受けました。

事件は、子供の泣き声を聞いた近隣の住民から、市の担当部署に連絡が入り、これを受けて市は、事件の4日後に警察に「暴行の疑いがある」として通報しました。警察が任意で被告人を取り調べたところ、「けがをさせたことは間違いない」と容疑を認めたため、被告人は「傷害」の疑いで逮捕・起訴されました。

なお、事件の翌日に県の児童相談所に当該事件に関するものと思われる匿名電話があったとする記録があったそうですが、これを受けた担当者は虐待の相談ではないと判断し、上司への報告や関係機関への連絡をしていませんでした。

この事件を受けて、警察では被告人により繰り返し虐待が行われていなかったか捜査したところ、前年の長男に対する虐待が判明しました。

事件は、平成30年10月××日、被告人が休日の日に当時6歳の長男に宿題をさせていたところ、「ねり消し」で遊んで宿題をしないため、「ねり消し」を捨てるように言いました。しばらくして長男は「ねり消し」を捨てたと言いましたが、実は捨てておらず、「お兄ちゃんが「ねり消し」を隠して遊んでいる」との次男からの「ちくり」を聞いた被告人は、これに激高し、長男の背中を自身のベルトで打ち据えて叱りました。その後、長男は「背中が痛い」と言って祖母の住む母屋に駆け込み、祖母は背中のあざを見て急いで冷却材で冷やしてあげた後、病院に連れていき、打撲傷で加療1週間と診断されました。

事件の翌日、長男はいつもどおり小学校へ通学し授業を受けていました。授業中、長男の様子が少しおかしいことに気付いた担任の教師は、背中のあざに気付き長男から事情を聴きましたが、長男は「僕が悪いです。ゲームを止めなかったからです。」と言って父親をかばいました。

長男の話を聞いた担任の教師が被告人に事情を聞くと「躾のつもりで手を出しました。ベルトはやりすぎでした。」と事実を認めましたので、児童相談所に連絡しました。

児童相談所では、被告人の家の近隣住民から「子供の泣き声がする」との通報も受けていましたので、要観察として被告人宅を虐待の恐れがあるとして注視することとしていました。

そして1年後に、被告人による次男への虐待事件が発生して、結果して長男への虐待事件も発覚することとなり、被告人は長男への暴行についても「傷害」の疑いで逮捕・起訴されることとなりました。

被告人は、逮捕後しばらくして保釈されましたが、保釈条件として子供たちとは別居して、更に接近も禁止されています。

被告人は、大学を卒業して地元で会社員として働いていました。勤務態度も良く、社長からも信頼される存在でした。前科・前歴もありません。

被告人の家族は、妻と7歳の長男、5歳の次男、3歳の長女の5人で暮らしていました。隣の母屋には被告人の実父母が暮らしていました。

被告人は普段から、長男と次男をきつく叱り、頬をつねったり、頬を平手で叩いたりしていました。また妻に対しても頬を叩いたり殴ったりしたこともありました。妻は長男の事件の際も、次男の事件の際も自身で子供を病院に連れて行けませんでした。子供を病院に連れて行ったことが夫に知れると、夫から何をされるか分からないという恐怖があったからと証言しています。


罪状認否

検察官の起訴状朗読の後、被告人と弁護人に罪状認否が問われました。

被告人 認めます。

弁護人 被告人と同意見です。


冒頭陳述

検察官から、事件の概要で記した内容が陳述され、証拠申請が行われました。

検察官の証拠申請に対し、弁護人は全て同意する陳述しました。


検察側証拠調べ

検察側の証拠、甲号証と乙号証が取り調べられました。

この内、乙号証で被告人の検察官面前供述調書の中で、「何故次男の足首を掴んでズルズルと引き摺っていったのか」との問いに対し、被告人は「自分の幼少時、両親に手を挙げられていたので自分もそうした」と答えています。


弁護側証拠申請

弁1 被告人が妻と一緒に受けている「ペアレントトレーニング」の資料
※ペアレントトレーニングとは、子育てに取り組む両親(保護者)が、積極的にその役割を引き受けていくことができるように、親と子どもを支援するために開発されたプログラムです。

弁2 被告人の勤務先の店長からの「減刑嘆願書(当店として今後厳しくします)」

弁3 情状証人訊問として被告人の妻を申請しました。

弁1~3全て検察官が同意したため証拠として採用されました。


証人訊問

弁護人
現在の心境はどうですか。
証 人
夫と一緒に子育てをしていくにあたって悩むことがあって、夫に罪を負わせることに悔やんでいます。

弁護人
被告人が逮捕の後、長男、次男が入院したのは何故ですか。
証 人
被告人からの虐待の恐れで入院しました。医療的な入院ではありません。

弁護人
被告人は逮捕後、子供たちとは会っていませんか。
証 人
子供たちは夫と長く会っていないことに不安を抱いています。また夫に会いたいと常に言っています。

弁護人
被告人は何故子供たちにこのようなことをしたのでしょうか。
証 人
元々夫は真面目で責任感が強いのです。子供へのしつけの仕方が分からなかったのだと思います。今現在夫婦2人で児童相談所の先生の指導で「ペアレントトレーニング」を勉強しているところです。

弁護人
児童相談所ではどのような勉強をしていますか。
証 人
例えば、「虐待が子供にどのような影響を与えるのかについては、脳が委縮して発達が止まる」ということなど、勉強になることが多いです。

弁護人
躾についてどういう認識ですか。
証 人
躾はにつきまして、夫婦間のコミニュケーションが少なかったということで、夫も悪いことをしたという認識が強く、夫婦でしっかり二度と起こさないようにしようと話し合っています。

検察官
長男の事件の事を翌日知って、分かった時点で被告人には言わなかったのですか。
証 人
それまでも夫の躾に対して強く止めることが出来ませんでした。夫が怖くて、強く言えない状況でした。

裁判長
何故自分の子供が暴力を受けていることを止められなかったのですか。
証 人
夫の躾が正しいとは思いませんでしたが、夫の気持ちが理解できなかったので止められませんでした。

裁判長
今後は止められるのですか。子供の気持ちが理解できていないのではないですか。
証 人
長男の時も次男との時も、私自身が子供を病院に連れて行かなかったのです。もし病院に連れて行ったことが夫に知れたら怖いという思いが強くありましたので。

裁判長
証人自身も被告人から暴力を受けていたのですか。
証 人
受けていました。今後も夫が怖いと止められるのか不安です。


被告人質問

弁護人
長男の事件では、何故ベルトで叩いたのですか。
被告人
嘘をついてごまかそうとしたので叩きました。ベルトで叩いたのは初めてですし、物で叩くことはありませんでした。手を挙げることは躾にとって必要悪だと考えていました。

弁護人
頭を叩く、頬をつねるは躾ですか。
被告人
3人の子供たちが、周りから変な目で見られないように、TPOに合った躾をしていると考えていましたが、正直やり過ぎたと思っています。自分も父親から厳しく指導を受け、暴力も受けましたが、暴力を受けたことで自身非行に走っていません。

弁護人
被告人の次男に対する暴力は、被告人が怒りやすいということが原因ですか。
被告人
怒りやすいことがないということはありませんが、母親とそりが合わなかったので、当日の母親とのやり取りでイライラがつのってきました。

弁護人
逮捕前の警察の取り調べでどう感じましたか。
被告人
今のご時世、暴力はあかんのやということと、結果を急ぎ過ぎていたということが分かりました。

弁護人
今後はどうしようと思いますか。
被告人
医学的な根拠を理解して暴力はしません。

弁護人
これまで奥さんに対してどう接していましたか。
被告人
妻に対して威圧的で、話を聞いていませんでした。

弁護人
奥さんに対して暴力は。妻のホッペタを叩いたり殴ったりは。
被告人
一度だけ手を挙げました。

弁護人
奥さんと対話できていましたか。
被告人
どうでもよい話は出来ていましたが、大事な話は出来ていませんでした。

弁護人
長男と次男に対してどういう気持ちですか。
被告人
酷いことをしてきて申し訳ないと思っています。子供たちが会いたいと言ってくれていることがありがたいです。

検察官
自身で次男のケガの状況は見ましたか。
被告人
数日後風呂に一緒に入ったときに見ました。

検察官
それを見て病院に連れて行こうと思わなかったですか。
被告人
なかったです。

裁判長
次男に対してはカッとなってやったのですか。
被告人
そのとおりです。

裁判長
長男と次男に何故暴行したと思いますか。
被告人
母親への気持ちが大きく影響していたと思います。

裁判長
児童相談所への相談はしなかったのですか。
被告人
相談できておればと思います。

裁判長
何故暴力がいけないのか、胸に止めてほしい。0を1にしてはいけない。
被告人
納得できるように取り組んでいきたいと思います。


論告求刑

論 告
幼い実子に対して暴力をふるって躾と称していることは、非難の程度が大きい。
長男・次男ともに被害結果は軽微ではない。

求 刑
被告人に懲役1年6月を求刑する。


弁護人最終弁論

被告人には前科・前歴はなく、仕事も真面目に勤めており、勤務先の会社から減刑への嘆願書も提出されています。動機も父親の責任を果たそうとした思いが根底にあったものです。被告人に対して重い処分が出ると、勤め先の会社も被告人に対して懲戒免職などの重い処分を下さるを得ず、このことで被告人の家族も重大な影響を受けることとなります。
被告人の妻が、今後は被告人とともに更生の道を歩むことを約束しています。

以上から、被告人には寛大な判決を要望します。


被告人最終陳述

ありません。


裁判の向こう側

先日、判決が言い渡された、千葉県の実子殺害虐待事件で被告人は懲役16年の実刑判決を言い渡されました。この事件の公判で、被告人は被害者に詫びの言葉を口にしつつ、最後まで弁解を続け「しつけが行き過ぎてしまった結果だ。日常的な虐待を続けていたわけではない」と主張していました。

今回の事件で被告人は公判の中で、「手を挙げるのは躾のための必要悪だと考えていた」という発言や、「自分も父親から厳しく指導を受け、暴力も受けましたが、暴力を受けたことで自身非行に走っていません。」という発言をしています。被告人には未だ「暴力は躾のためのツール」、という考え方が根底にあるという点で、先の実子殺害虐待事件の被告人と同様の考え方をしていると感じました。

今後は「ペアレントトレーニング」を受ける中でこの考え方が改められることを期待したいと思います。

昨今のニュースで児童虐待が多く取り上げられるようになっていますが、これが氷山の一角でないことを祈ります。

子育てに悩んでいる方は、可能な限り早期に、児童相談所などの専門機関に相談するなりして、一人で悩むことのないようにしましょう。そして社会のみんなで子どもを見守って大切に育んでいきましょう。

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