2020年3月27日金曜日

滋賀県大津市伊香立の「香の里史料館」は隠れた一級の郷土資料館です

滋賀県大津市伊香立地区に、昔の暮らしの道具を展示した郷土資料館「香の里史料館(かおりのさとしりょうかん)」があります。大正から昭和の田舎の生活を再現した展示物や民具、農業機械など歴史的に貴重な展示物が多く集められており、田舎育ちの私は幼いころにタイムスリップし、懐かしさがこみ上げてきました。

囲炉裏の間
「滋賀県大津市伊香立」は、琵琶湖の西方の比叡山脈の麓に緩やかに広がる田園地域にあり、琵琶湖に注ぐ真野川上流の丘陵一帯の田園のなかに集落が点在しています。

「伊香立」の地名の由来は、比良山系の北側を流れる安曇川の「いかだ流し」の起点であったことからという説と、安曇川の上流部の「葛川」を開いた天台宗の僧「相応和尚(そうおうかしょう)」がこの地を訪れた際に、「良い香りが立ちのぼった」ことから「伊香立」とした説があるが、地元の人たちは後者の説を有力視しています。



「伊香立」は古来より、京と若狭を結ぶ「塩の道(鯖街道)」が通過していたことから、歴史上さまざまな栄枯盛衰のドラマを見続けてきました。のどかな田園風景のそこかしこに往時をしのばせる物語が秘かに息づいています。

伊香立南庄地区にある「融神社(とおるじんじゃ)」は、紫式部が書いた「源氏物語」の主人公「光源氏」のモデルの一人と云われている「源融(みなもとのとおる)」が当地を荘園とし居を構えていたことから、御祭神としてお祀りしている神社です。

融神社
また、伊香立下在地地区にある「新知恩院」は、応仁の乱で「知恩院」が戦火に巻き込まれて炎上し、大きな被害を受けた際に、焼け残った仏像・経典・古文書類を、当初伊香立上在地の「金連寺(きんれんじ)」に避難させましたが、後に伊香立下在地に寺院を建立し、避難させてきた仏像・経典・古文書類を移し安置しました。こうして新たな寺院は「新知恩院」と名付けられました。

新知恩院
この他、伊香立には御祭神を「藤原旅子」とする旅の安全にご利益のある「還来神社(もどろぎじんじゃ)」などもあり、さまざまな歴史のドラマの舞台となりました。

最近では「ホタルの里」「香の里」としても脚光を浴びつつあります。

そんなのどかな田園風景の中に「香の里史料館」があります。

香の里史料館
「香の里史料館」は、伊香立の昔ながらの民家を再現して、当時の伊香立の農家の生活の様子が分かる道具や絵本、紙芝居、生活道具、山仕事の道具などを展示しています。

1階は今では失われつつある懐かしい農家の様子が再現されている展示があり、2階には昔の農業機械や生活道具、山仕事の道具などが展示されています。また2階には研修室を兼ねた昔の小学校の教室も再現されています。

1階には昔の典型的な農家が再現されています。


農家の和室

正面には天皇皇后両陛下の写真が額に入れて掲げられています。裸電球の照明器具が吊り下げられ、足踏み式ミシンや和箪笥、鏡台、座卓の上のキセル盆など忠実に再現されています。

農家の和室
農家の囲炉裏の間(リビングダイニング)

部屋の中央に「囲炉裏」が掘られ、鉄瓶で湯を沸かしています。部屋の奥には「水屋(みずや・食器棚)」があり、その前には木製の「おひつ(ごはんを入れておく櫃)」や木桶があります。

キセルを咥えたおじいさんの後ろには赤ん坊をあやす竹籠があります。そして繕い物をするおばあさんは横には、お針箱と炭を入れて使うアイロンもあります。竹でっぼうで遊ぶ孫の後ろには、蓄音機とラジオが昔なつかしい音楽を奏でています。

この展示で特に感心したのは、頑固そうなおじいさんの表情です。よく再現されて本物と見まがうほどの出来です。

囲炉裏の間
農家の台所

土間には、3つの「おくどさん(かまど)」が設置され、おくどさんの奥には井戸があり手押しポンプも置かれています。一番奥には木製の調理台(システムキッチン)があります。調理台の周りには調理器具が置かれています。右上の四角い箱は蒸し器です。

台所
土間

玄関を入ってすぐは土間です。農作業から帰ってくると、ここで洗い桶の湯で足を洗ってから囲炉裏に上がります。左手の長い板は着物の生地を水洗いするための「洗い張り用の板」です。その前には「鉄砲風呂」があり、その横には「たらい」の上に「洗濯板」が置いてあります。右手には下駄箱があり、その後ろの棚の最上段には電話機付きの「有線放送の受信機」が置かれています。

土間
土間の中央に置かれているのは、紙芝居道具を荷台に乗せた自転車です。

土間
牛小屋

家の土間に直結して牛小屋があります。農作業に欠かせない牛は家族と一緒だったのです。東北地方の曲り家でも、同様に家の中で牛や馬を飼っていました。

牛小屋
牛小屋の前の庭には、ニワトリが放し飼いされています。ニワトリの横の籠はニワトリを入れる籠で、伏せてニワトリが逃げないようにしておきます。

牛小屋
その他の家仕事道具

右下の大きな木桶は「醤油桶」で、その上には「魚籠(びく)」があります。中央から左手にかけての機械は藁を加工する機械です。右側上部の機械は縄を作る「縄綯機(なわないき)」、中央下部の機械は米俵を作る「俵編み機(たわらあみき)」、左側の機械は筵を編む「筵織機(むしろばたき)」です。なお、壁にかけてあるのは日傘と蓑です。

家仕事道具

2階には懐かしい道具が集められています。

「籾摺機」は、稲籾を摺ってもみ殻を取り除いて玄米にする機械です。


「開墾機」「田植機」「鋤」「鍬」
右手前は牛や馬に引かせて田畑を開墾する「開墾機」です。中央の三本の枠がある道具は、田植え(手植え)の際に列を揃えるために泥面に線を付けるための道具です。その左は「鋤」「鍬」の類です。


「足踏み式脱穀機(だっこくき)」「唐箕(とうみ)」
右手の回転ドラムの付いた機械は、稲束から稲籾を取る「足踏み式脱穀機」です。日本中の農家がこれを使っていました。中央から奥は脱穀した稲籾から風で塵を取り除いて「籾」と「玄米」「くず米」に選別するための機械「唐箕」です。手前の機械は大正時代の「唐箕」の一部です。



昔の山仕事の道具「木馬(きんま)」
山で伐採した木材を運ぶための道具です。山道に木の棒を並べて、その上を木材を乗せた「木馬」を引いて滑らせて木材を運んでいました。山道には急坂もあり大変危険な作業でした。


昔の暖房器具
左から「湯たんぽ」「豆炭あんか」「火鉢」「瓦炬燵」


「かんぴょう剥き機」「糸繰り機」など


「消防手押しポンプ」「消防の法被」「量り」など


「蓄音機」となぜか「一式水上機のプロペラ」


その他にも昔懐かしい道具や、「東洋象の化石」も展示されています。

研修室を兼ねた昔の小学校の教室

懐かしい木の机とチョークの緑の黒板



史料の種類の多さと、工夫された展示方法は一級の郷土資料館です。この伊香立の地でいわば埋もれているのは大変もったいないなと思います。



なお、何故この伊香立の山間の地で、エレベータまで設置されたこのような立派な施設があるのでしょうか。運営主体も「伊香立学区自治連合会」となっており地元の自治会が運営されているようです。

これは隣の建物「環境交流館」と関係がありそうです。伊香立地区にはゴミ処理施設「北部クリーンセンター」が設置されていますが、この施設の建設に伴う地元協力金を使って「環境交流館」が建設されたようですが、このことに関連して「香の里史料館」も建設されたようです。

もちろん箱物だけでは開館できませんので、地元の方から史料の提供があったことと思いますし、無料で毎日開館され受付の方も自治会の方だと思います。地元の大変なご努力のもと成り立っているものと思います。

いずれにしても、研修室も備えた立派な施設を学校教育への活用や、一般の方の見学にももう少し広報するなどしてメジャーなものにしてほしいと思います。



所在地
滋賀県大津市伊香立下在地町1223-1

利用案内
開館時間 9時~16時
休館日  月・火曜日、祝日、年末年始
入場料  無料

アクセス
JR湖西線堅田駅下車 江若バス「生津」行、または「朽木学校」行で「下在地」バス停
下車徒歩1分

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