2019年9月16日月曜日

【裁判傍聴記】「仏像詐欺」高齢者を狙う奴らは手を変え品を変えてやってきます

被告人は、60代後半の女性です。彼女は主犯格の男の指示を受け、全国の高齢者に電話をして、高額の模造の仏像の購入を持ち掛けました。「仏像詐欺」です。被告人は「テレアポインター(テレアポ)」として詐欺の一部の重要な役割を果たしていたのです。

資料写真(pixabay)

罪 状 詐欺罪

被告人 60代後半 女性

判 決 懲役2年 未決拘留日数60日を算入 執行猶予3年

今回の裁判は、判決言い渡しのみでしたが、現在全国的に蔓延している高齢者を狙った詐欺のうちでも、古くからある「仏像詐欺」の現代版でしたので、興味深くかつ自分自身に対する注意喚起も含めて傍聴しました。

 事件の概要 

被告人は、共犯者2名とともに高齢者から高額の仏像購入代金を騙し取ったものです。

事件は、滋賀県内の郵便局で高齢の女性が10万5千円を振り込もうとしていたのを、不審に思った郵便局が警察に通報したことから発覚しました。

この事件では、主犯格の東京の仏像通販会社の社長の50代の男性と同社の元社員の40代の男性、他に60台後半から70代前半の女性3人が逮捕されています。このうちの女性の1人が被告人です。

犯行の流れはつぎのとおりです。
被告人ら3名の女性は、主犯格の男性の会社の表向きは「通販会社のテレアポインター(テレアポ)」として(かけ子)の役割で、全国の高齢者の名簿や叙勲を受けた人の名簿をもとにターゲットとなる高齢者を抽出して電話をかけ、社長らが作った「電話応対マニュアル」をもとに、「高額商品を買ったことがあるか」、「通帳を自分で管理しているか」、「仏さまに手を合わせているか(信心はあるか)」などを聞き取り、騙しやすい相手かどうか探りました。

そして高額商品を買ったことがあると答えた相手には、商品の金額や一括払いか分割払いだったかを聞き出して相手の経済状態を探り、勧誘に乗ってきそうな相手であるとの感触がある場合は仏像購入についてさりげなく持ち掛けて、「健康長寿」や「無病息災」を祈るためにもと言い、仏像のパンフレットを送る旨を伝えます。

パンフレットを送り付けた後、別の元社員が電話をして、「先日の電話で気に入っていただいたのでお届けできます。先日の電話では大変喜んでいただいていらっしゃいましたよ。明日お届けしてよろしいですか。」と相手が断れなくなるように仕向けます。

最期に主犯格の社長が、相手方に仏像を発送した後に、「仏様を発送しました。」ととどめの電話をして高額な代金を振り込ませていました。
なお、発送した仏像は定価2万円程度の市販品でした。

「電話応対マニュアル」を作り、役割もしっかり分担して巧妙にシステム化された手口で、「通販会社」を装って安価な仏像を高額に売り付ける「テレアポ詐欺」で騙された被害者は、全国で約100件以上あり、被害総額は4000万円以上にのぼります。

今回の裁判で被告人が関与したとして検察が起訴した事件は以下のとおりです。
・平成30年7月87才の高齢者から42万円詐取
・平成30年7月80代の高齢者から42万円詐取
・平成30年8月84才の高齢者から42万円詐取
・平成30年9月88才の高齢者から16万8千円詐取
・平成30年9月80代の高齢者から42万円詐取
・平成30年10月88才の高齢者から7万円詐取

被告人は、起訴されたもののみで合計190万円を超える事件に関与していました。

この事件は、東京の通販会社の事務所が犯行の拠点ですが、滋賀県警が関係者全員を逮捕し、取り調べています。また大津地裁が審理しています。これは、発端となった事件が滋賀県内であったことからそうなっているのです。今回の被告人も恐らく関東在住でしょうが、滋賀県の警察に逮捕されて滋賀県の留置場なり拘置所に収監されていたのでしょう。

全国的に被害が拡がりつつあった事件について、高齢者の不審な振り込み行動から警察に通報した滋賀県の郵便局は大手柄ですし、事件の全貌(余罪全てを起訴できているのかは分かりませんが)をあぶり出して関係者全員を逮捕し、被害の拡大を阻止した滋賀県警も大手柄かも知れません。

 判 決 


主 文 
被告人を懲役2年に処す。未決勾留日数60日を算入する。
この刑の執行を3年間猶予する。

理 由
・犯行は、高齢者から高額の金員を騙し取るという巧妙かつ悪質な態様であり酌量の余地はなく断罪に処されるべきものである。
・次に情状としては、被告人は首謀者の会社で「テレアポ」要員として働いていたものであり、「マニュアル」に基づき電話していたもので、犯行に関与していたものの直接的な関与ではない。
・被害者との間に示談が成立しており、被害金額全額ではないものの150万円が既に還付されている。
・被告人に前科はなく、高齢者を食い物にした悪質な犯行に加担したことを反省しており、今回に限り執行猶予付きの判決とした。

 裁判の向う側 


「頭の良い悪い奴ら」は、手を変え品を変えて高齢者に忍び寄ってきます。

仏像詐欺は、昔は新興宗教を名乗った犯罪が主流でした。今回の事件はこれにひねりを加えたものでしょうか。

記憶力や判断力の衰えた高齢者は、自分が仏像を買うという意思表示したのかどうか分からずに「先日買うと言われましたよ。特別に作って既に送りましたので。」などと言われたら仕方なく高額のお金を支払ってしまうのでしょう。しかも高齢者にとって微妙な内容の「健康長寿」「無病息災」など言いながら仏像を勧められるので、信心のある高齢者はついつい手を出してしまうのです。

高齢者の特質を効果的に利用した、絶妙な犯罪です。今回の犯行グループは逮捕されましたが、必ず別のグループがこれを真似て犯行を行うと思います。高齢者自身も謙虚さをもって何かあれば廻りに相談するなどして被害に逢わないようにしてください。また、大事なのは家族です。身近であろうが離れていようが常に気を付けてあげてください。隣近所の力も大切だと云われていますが、他人の懐具合が分かるわけでもありませんので、家族の方の力に期待します。

今日の新聞に、日本の人口に占める70才以上の割合は27%になった、との記事が掲載されていました。益々高齢化する社会です。皆が注意していきたいものです。

0 件のコメント: