2019年5月20日月曜日

【裁判傍聴記】運送会社の役員なのにあなた何やってるの

被告人は夜間、車で国道を走行中にパトカーで警ら中の警察官に職務質問を受け、無免許
運転であることが判明し現行犯逮捕されましたが、この際に警察官に対し頭突きをして下唇にケガを負わせ、公務執行妨害と傷害でも現行犯逮捕されました。更に警察署での呼気のアルコール検査で基準値をはるかに超えるアルコール濃度も判明し、酒気帯び運転でも現行犯逮捕されました。

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資料画像(by Pixabay)

罪 状 道路交通法違反(無免許・酒気帯び)、公務執行妨害、傷害
被告人 40代前半 男性
求 刑 懲役2年6月 
判 決 懲役1年6月 


 事件の概要 

平成30年6月□日夜半過ぎ、パトカーで警ら中の警察官は、国道を走行中の被告人の自動車を停車させ職務質問を始めました。

警察官は被告人に免許証の提示を求めましたが、被告人は「何で免許証を見せる必要があるねん」と免許証の提示を拒否しました。被告人が暴言を吐きながら免許証の提示を拒み続けるため、警察官は応援を要請しました。
警察官は被告人の吐く息から酒の匂いを感じましたので、アルコール検知も求めましたが
、被告人はこれも拒否しました。

応援の警察官が2名現場に到着して、被告人の身分を示すものはないかと被告人の自動車を検索したところ、被告人は「何勝手にさわってるのや」と言いながら、暴れました。

その後、被告人の氏名が判明したので、パトカーの無線で氏名総合照会をかけると無免許であることが判明し、その時点で警察官は被告人を「無免許運転」で現行犯逮捕し、手錠をかけました。

その直後、更に応援の警察官が2名現場に到着して、その内の1名の警察官Aが、被告人の正面に近づき、説得を始めたところ、被告人は「何かっこつけてねん」と言って、警察官Aのあご付近に向かってゴツンと音がする勢いで「頭突き」をしました。警察官Aは唇をめくり被告人に出血した様子を見せ、「公務執行妨害」「傷害」で現行犯逮捕しました。警察官Aは被告人に「ダブルやな」(公務執行妨害と傷害)と告げたところ、被告人は「何がダブルや。その方がかっこええわ」とうそぶきました。

警察官Aが病院で受診したところ、「右上口唇損傷」で加療3日の診断を受けた。

被告人を所轄の警察署に連行すべくパトカーに乗せようとしましたが、被告人が更に暴れたたため、警察官はやむなく警察官を雨で濡れた道路に伏せました。

被告人を所轄の警察署に連行し、アルコール検査を実施したところ、呼気1リットル中の
アルコール濃度は「0.44mg」と酒気帯び運転の基準値をはるかに超える数値でしたが、被告人は記録への署名を拒否しましたが、その場で「酒気帯び運転」でも現行犯逮捕しました。

被告人は、県内の運送会社の役員として、安全運転管理者を担当していました。

被告人には、「窃盗」「傷害」「公務執行妨害」「覚醒剤」等の前科が10犯あり、平成8年には「酒気帯び運転」で罰金15万円の前科もありました。


 罪状認否 

検察官の起訴状の朗読に対して被告人が事実の認否を陳述しました。

被告人
「無免許運転」と「酒気帯び運転」は認めるが、「公務執行妨害」「傷害」については認めない、と陳述しました。

弁護人
被告人と同意見と陳述しました。


 検察側証人尋問 

検察側の証拠の補充として、被害を受けた警察官Aと当日臨場していた警察官1名が証言しましたが、傍聴していませんでしたので記載しません。


 弁護側証人尋問 


弁護側の情状証人として、被告人の交際中の女性が証言しました。

弁護人
被告人との関係は
証 人
3年前から交際しています。

弁護人
被告人が無免許であることを知っていたか。
証 人
知っていた。交際中は車を運転していません。

弁護人
拘留中の被告人への面会は
証 人
週に2回程度面会に行っていた。

弁護人
アルコール依存症治療施設のMACと話ししたか。
証 人
話をして、具体的な内容について調整しています。
(説明)
MACは、NPO法人ジャパンマック(J-MAC)で、アルコール等依存症者の回復と成長を図るためのリハビリテーション施設を運営しています。

裁判長
面会で被告人は何を話していたか。
証 人
反省をしており、酒をやめると言っていました。


 被告人質問 

弁護人
何故このようなことをした。立場は分かっているのか。
被告人
安全運転管理者の立場上、やってはならないことです。

弁護人
知り合いのところに行って酒をどうした。
被告人
つい飲んでしまった。しかたないなと思いながら運転してしまった。

弁護人
無免許運転は今回だけか。
被告人
1年前にもある。今回は一瞬の気の迷いです。
自分は現在でも甘い考えを持っています。
今後絶対運転しません。酒も断ちます。
彼女のためにも再犯しません。

検察官
平成8年に酒気帯び運転で罰金15万円の前科があるのに、何故酒を飲んで運転した。
前回の判決で本当に反省していたのか。
被告人
一瞬の気の迷いからです。

検察官
「公務執行妨害」「傷害」時の状況について質問しました。
被告人
自分は警察官に「何で免許証を見せる必要があるねん」と免許証の提示を拒否したことは認める。

警察官が勝手に車の中をゴソゴソし始めたので、「何勝手にさわってるのや」と
言ったことも認める。
その後はおとなしく警察官と話しをしていた。

警察官Aが勝手に自分の唇をめくって見せにきたことも認めるが、自分は頭突きはしていない。

逆に手錠をかけられて引っ張られたので手首にあざができた。雨で濡れた道路に倒されて着ていた服がびちゃびちゃになった。

裁判長
今日証言してくれた、証人の気持ちは分かっているのか。
被告人
申し訳ないと思っている。

裁判長
あなた何をやっているのか。
自分の立場が分かっているの。
前回の酒気帯び運転と今回とで、あなた何が違うの。
被告人
酒は絶対やめます。

裁判長
会社の社長はどう言っている。普通は解雇ですよ。
被告人
まだ解雇の話は出ていません。


 論告求刑 

論 告
「無免許運転」と「酒気帯び運転」は被告人も認めるところ。「公務執行妨害」「傷害」についても、警察官の証言は信用できる。

求 刑
懲役 2年6月


 弁護人最終弁論 

「無免許運転」と「酒気帯び運転」については争わない。
「公務執行妨害」「傷害」については、警察官の証言は信用できない。またドライブレコーダーにも犯行の様子は画像も音声も記録されていない。
「公務執行妨害」「傷害」は無罪を主張する。


 被告人最終陳述 

警察官が頭突きされていないのに、頭突きされたと故意に証言したとは思わないが、自分は頭突きをしていない。
ドライブレコーダーの記録も見てくれと言ったが、取り上げてくれない。
前科者は信用できないのか。


 判 決 

主 文
被告人を懲役1年6月に処する。未決拘留日数のうち100日をこれに算入する。

理 由
「疑わしきは被告人の利益に」の観点で、検討を進めた。

その結果、警察官の証言は信用に値するとし認定した。
また、ドライブレコーダーには被告人と警察官がもみ合う様子が、記録されており、警察官の証言とも一致する。

警察官が「公務執行妨害」「傷害」で逮捕したことは、いわゆる「ころび公防」(警察官などの捜査官が「公務執行妨害」「傷害」などをたくみに適用して現行犯逮捕するもの)ではない。また、警察官はでっち上げを行う理由も動機もない。

量刑理由
被告人は、犯罪事実に加えて、会社に置いてあった従業員所有の車を無断で持ち出して使用しており、悪質である。しかしながら、傷害の程度は中程度まではない。

判決言い渡しの後、裁判長は次のように被告人を諭しました。
会社の社長と交際相手に二度と迷惑をかけることが無いようにしなさい。
あなたは、会社の看板にも傷をつけたことを自覚しなさい。


 裁判の向う側 

今回の事件は、テレビで放送している「警察24時」の1シーンを見ているような事件でした。40過ぎた大人の男性がこんなにも低次元の行いをしているのかと思うと、あわれを感じました。

被告人は、刑務官に連行されて法廷に入る際もふてくされた態度をしており、被告人質問の際も椅子に座ってズボンのポケットに手を入れており、「公務執行妨害」「傷害」は無罪だと主張したかったのかも知れませんが、「無免許運転」と「酒気帯び運転」についても反省していないとしか見えませんでした。

被告人が勤めていた会社も、被告人の前科や日頃の行いを知ったうえで、役員に任じていたのでしょうか。まして安全運転管理者に任じていたことなどは理解に苦しみます。

被告人は、懲役の間にしっかりと反省して、社会復帰後は二度と犯罪に手を染めないよう心してほしいと思います。交際相手を二度と傷つけないようにしてほしいものです。

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