2019年5月23日木曜日

【裁判傍聴記】一度ベンツに乗ったら車上荒らしはやめられません

刑務所から出所して生活保護の相談で役所を訪れた被告人は、ケースワーカーと口論になり、あげく役所のガラスを割りました。被告人はこれを弁済するために金を作ろうとして車上荒らしを行いました。被告人は車上荒らしを1回やったことで、タガが外れてしまいその後何度も車上荒らしを繰り返し、盗んだ金をもとにベンツやバイクを買い、結果して2年余りの間に264回の車上荒らしを行い、被害金額は1200万円に昇るというものです。

車上荒らし

罪 状 窃盗
被告人 50代後半 男性
求 刑 懲役3年


 事件の概要 

平成30年〇月×日~△日にかけて、被告人は駐車場に止めてあった車の窓を割り、車内に置いてあった財布から現金48,400円を窃取したほか、同様の犯行を2件行い、警察の捜査の結果逮捕されました。

被告人は、前刑で服役していた刑務所から出所後、生活保護の相談で役所を訪ねましたが、その際役所の生活保護ケースワーカーと口論になり、かっとなった被告人は傍のガラスを割りました。役所からは器物損壊の弁済として約20万円を請求され、困った被告人は車上荒らしでお金を調達しました。

その後、知りあいのリサイクル関係の会社に勤めましたが、その会社の社長から借りたお金を返すべく、車上荒らしを繰り返しました。そのうち車上荒らしで得られるお金に味をしめ、盗んだ金額も大きくなって、ベンツやバイクなど高価な物を買うようになり、生活も派手になっていきました。

結果して、刑務所から出所後に実に264回の車上荒らしを繰り返し、被害額は合わせて1200万円を超えるまでになっていました。

今回起訴されたのは、直近の3回の車上荒らしです。

被告人は、同種前科が多数あり、前刑は平成25年に車上荒らしで懲役3年の実刑判決を受けていました。


前回までの法廷で、起訴状朗読と検察側冒頭陳述、検察側と弁護側の証拠調べまで終了していましたので、当日の法廷では弁護側の追加証拠請求と被告人質問から手続きが進められました。


 弁護側追加証拠申請 

1.今回起訴された事件3件のうち2件について被害弁済の示談が完了したということで、示談書と示談金の支払いの証拠書証が申請されました。
2.起訴された3件のうち1件については、示談が未完のため、交渉過程の記録が証拠書証として申請されました。
3.被告人が逮捕まで勤めていたリサイクル会社の社長と従業員の連盟による、減刑の嘆願書が証拠書証として申請されました。

検察側が以上の証拠書証に全て同意しましたので、証拠として採用されました。


 被告人質問 

弁護人
前回も車上荒らしで実刑判決で服役した。今度やったら刑務所の入ることは考えられたはず。何故やめられなかった?
被告人
金を借りていたので返さなければと思いました。リスクは分かっていました。

弁護人
繰り返しているのは?
被告人
タガが外れました。慣れてしまって繰り返しました。1回やったら抑えが利かなくなりました。

弁護人
車上荒らしのお金で生活が豊かになったのか?
被告人
1種のぜいたく病になりました。収入が増えて、ベンツや高級バイクを買いました。

弁護人
かなりの回数ををやっているが、やめようと思わなかったのか?
被告人
やめようと思っていたらがベンツなどのローンがあったのでやめられませんでした。働いたいた給料では支払いは無理でした。

弁護人
働いて得られる収入に見合った生活にしようとは思わなかったのか?
被告人
改めなければならないと思っていました。

弁護人
今回被害弁済した以外の方にも被害弁済が必要だということは分かっているのか?
被告人
分かっています。

弁護人
服役して出所後の住まいは?
被告人
今の会社の社長が帰ってこいと言ってくれています。やり直したいと思っています。

弁護人
身内(肉親)とは縁が切れているのか?
被告人
頼れるのは身内以外しかありません。

弁護人
社長は何の事業をしているのか?
被告人
建設業もやっているが、主要な事業はリサイクル業です。

弁護人
社長との付き合いは?
被告人
2~3年の付き合いです。社長の弟とは20年位の付き合いです。

弁護人
社長は留置所に面会に来てくれたのか?
社長が法廷で証人として出廷してくれないのは何故か。
被告人
14~15回面会に来てくれました。初日から帰ってこいと言ってくれています。
保釈金も出してやると言ってくれました。(保釈は無理だったようです。)
社長は目が悪いので出廷できません。

弁護人
刑務所に入ることが分かっているのにやったということは、出所して社会復帰してもまたやるのではないか?
被告人
自分はやらないと思っているが、信じてはもらえないと思います。
今まで自分は他人に頼って生きてきたことがないが、これからは他人に頼って、支えてくれた人のためにもしっかりと更生したいと思っています。

弁護人
今までも毎回同じことを言っているのでは?
被告人
しないと言っても信じて貰えないかもしれませんが、今回はしっかり守ります。

検察官
示談の話があったが、逮捕されたとき手元に40万円所持していた。検察官が余罪を確認していくと余罪が264件、被害総額1200万円超だったが、これらも被害弁済していくつもりか?
被告人
余罪も認めました。被害弁済も考えています。

検察官
車上荒らしは車の窓を割って窃盗している。被害者は車の変わり果てた姿を見て呆然としていた。被害者の気持ちが分かるか?
被告人
分かります。

裁判長
社長の下で働きながら盗みを働いていたということか?
被告人
もらう給料以上の高い物がほしかったので、盗みを働きました。

裁判長
そのことは以前もか?
被告人
若い時からです。
社会に居続けていると慣れてしまい、生活感覚が麻痺していました。

裁判長
生活スタイルを改める必要がある。
今現在は住所不定か?
被告人
会社の寮の部屋を1部屋空けてもらっています。現在荷物はその部屋に入れてもらっています。出所すれば、社長に家に戻ることになります。

裁判長
社長とスタッフ一同が嘆願書を書いて、戻ってこいと言ってくれているのか?
被告人
ありがたいと思っています。


 論告求刑 

論 告

窃盗したお金でベンツや高級バイクを購入するなど悪質で釈明の余地はない。
犯行は巧妙でかつ大胆で、規範意識もない。
実刑を含む前科も多く、再犯の可能性が高いため収容しての更生教育が必要。

求 刑

懲役 3年


 弁護人最終弁論 

被告人は反省しており、社会復帰後に援助してくれる人もいます。
社会での更生が望ましく、執行猶予付きの判決をお願いします。


 被告人最終陳述 

被害者の皆さんにこの場を借りて謝罪します。申し訳ありませんでした。
今回支えてくれる社長に出会い、他人に頼れる人に慣れと教えられました。今後は他人に頼られる人になりたいと思っています。


 裁判の向う側 

刑務所から出所して2~3年の間に264回、1200万円超の車上荒らしを犯すとは、被告人の大胆な犯行に驚愕します。何故これほどまでに大胆な犯行でありながら、今まで逮捕されなかったのか不思議です。

それにも増して驚くのは、盗んだお金で高級車ベンツや高級バイクを購入したり、贅沢な生活をしていたことです。まわりの人たちも被告人の生活態度がおかしいと感じていたでしょうし、被告人本人も怪しまれると思わなかったのか。あまりにも社会をなめ切っていますね。

全ての被害者への弁済も考えると言っていますが、気の遠くなる話で、たとえ被告人本人が本気でそう思っていても、弁済し終わるのはそれこそ気の遠くなる話です。

社長は被告人のために親身になってくれているようですので、この気持ちを裏切ることの無いようにしてもらいたいものです。

皆さん 車には貴重品を置かないようにしてください。

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