2019年5月23日木曜日

【裁判傍聴記】夫婦ゲンカのイライラ解消のために万引きしました

今回の事件は72歳の高齢男性が、夫婦ゲンカのイライラを解消するために万引きを行ったものです。


罪 状 窃盗
被告人 72歳 男性
判 決 懲役1年6月 執行猶予5年 訴訟費用は被告人に負担させない。

今回の法廷は、判決の言い渡しでした。


 事件の概要 

平成30年6月×日午前11時頃、被告人は近くのスーパーの食料品売り場で、商品を店のカゴに入れて買い物を続けました。途中通路のかげに入ったところで一部の商品を手持ちのバッグと着衣のポケットに入れ、店のカゴに残った商品のみレジでお金を払い、店を出たところで店の保安員に呼び止められました。被告人が万引きを認めたため警察に通報され、駆け付けた警察官によって窃盗の現行犯で逮捕されました。

被告人は犯行当日の朝、2人でくらしている被告人の妻とささいなことから口げんかとなりイライラしていました。
食料品を調達するために立ち寄ったスーパーで買い物をしているうちに、朝方の妻とのケンカのことが頭をよぎりました。
朝のイライラが再びおそってきましたので、店のカゴに入れた商品を万引きするスリルでこれを解消してやろうと思い、通路のかげで一部の商品を手持ちのバッグと着衣のポケットに入れ替えて店を出たのでした。

被告人には、前科があります。
平成25年に今回と同様に万引きで逮捕され、懲役3年 執行猶予3年の判決を受けています。


 判 決 

主 文

被告人を懲役1年6月に処す。この判決が確定してから5年間、刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人に負担させない。


理 由

被告人は、食料品を通路のかげで手持ちのバッグや着衣のポケットに隠匿するなど、手慣れた犯行で悪質である。
動機は、夫婦ゲンカのイライラを解消するためということで、その動機に酌むべき事情はない。
被告人は、平成25年に同種犯行で執行猶予付きの有罪判決を受け、執行猶予が解けて間もない時期に容易に同種犯行を犯しており、被告人の規範意識は乏しいと言わざるを得ない。

しかし、犯行は常習的でなく、本人は反省もしており、72歳という高齢も考慮して、また被告人の妻が「今後は一人では買い物にいかせません。」と被告人の監督を約束していることから、今回は執行猶予付きの判決とする。


この判決言い渡しを受けた被告人は、「もう二度と致しません。ありがとうございました。」と大きな声で裁判長に向かって言いました。被告人の妻も傍聴席から大きな声で
「ありがとうございました。」と礼を言いました。


 裁判の向う側 

二人でくらしている高齢夫婦の旦那の方が万引きを犯した事件です。動機はお金に困っての犯行ではなく、夫婦ゲンカのイライラの解消という身勝手な犯行ですが、高齢者の生活の閉塞感や悲哀を感じて仕方ありません。

被告人は6年前にも万引きで有罪判決を受けています。6年前というと被告人が67歳の時の犯行です。妻の年齢は分かりませんが、傍聴席で見た限りでは被告人と同年齢だと思いました。ですから普通に年金を納付しておれば、夫婦ともに年金の受給年齢になっていますので、前回の犯行の時も、ぜいたくさえ望まなければ、なんとか年金だけでも生活できていたと思いますので、この時も動機はお金ではないのではと思います。

子供が親元を離れ、夫婦二人の生活になり、勤めもやめているので、世間も近所の付き合いだけになり、被告人の胸中にはある種の閉塞感があったのかも知れません。それが夫婦ゲンカをきっかけにイライラとなり万引きの犯行に駆り立てたのでは。

少し想像が過ぎるかも知れませんが、これからの超高齢化社会では、避けては通れない問題かと思います。引退前に企業や社会で活躍していた人は、余計に閉塞感は大きいのではないでしょうか。引退前にしっかりと引退後の生活設計をしておくことも大事かと思います。他人事ではないことを肝に銘じていきたいと思いました。

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