2019年5月20日月曜日

【裁判傍聴記】何してくれてんのやー

平成30年〇月×日、被告人は区役所の高齢者福祉を担当する部署に押しかけ、自身の高齢の母親の介護福祉の担当者を呼び出し、面談に出た女性役職者の髪の毛を掴んだうえ「何してくれてんのやー」と叫びながら暴行に及びました。暴行を受けた女性役職者は病院で治療を受ける程度の被害を受けました。


罪 状 公務執行妨害、傷害
被告人 40代後半 女性
求 刑 懲役1年


 事件の概要 

平成30年〇月×日、被告人は区役所の高齢者福祉を担当する部署に押しかけ、自身の高齢の母親の介護福祉の担当者を呼び出し、面談に出た女性役職者の髪の毛を掴んだうえ「何してくれてんのやー」と叫びながら暴行に及びました。暴行を受けた女性役職者は病院で治療を受ける程度の被害を受けました。

被告人は以前から高齢の母親を介護していましたが、今年に入り母親が緊急通報を押すなどしたため、区役所で調査していました。その結果被告人による高齢者虐待の疑いがあることが判明しました。

区役所では母親への虐待被害を防ぐためには被告人から隔離する必要があると判断しました。そのため区役所は被告人に状況を説明したうえで、病院に入院していた母親を高齢者福祉施設へ収容し、被告人には収容先を教えないという措置をとりました。

これに納得のいかない被告人は、区役所に電話で抗議しましたがそれでも納得がいかないため、翌月区役所に押しかけ、本件犯行に及んだものです。

被告人は、高校中退後美容師として働くなどしていましたが、平成11年には傷害の前歴があります。結婚して娘をもうけましたが、後に離婚しています。また、被告人は精神科に通院治療中で処方薬を服薬しています。


 弁護側提出証拠   
  
弁護側は、以下を弁護側証拠として提出しました。

1.被告人の反省文
2.未成年の娘が母親に対する思いを述べた陳述書
3.被告人が通院する精神科の診断書


 被告人質問 
 
弁護人
何故区役所の職員に暴行したのですか。
被告人
病院内で母親が出血したのは、区役所の職員が叩いたからです。

弁護人
職員に暴行したことを、今現在どう思っていますか。
被告人
反省しています。申し訳ないことをしました。

弁護人
興奮を抑えることが出来なかったのは何故ですか。
被告人
精神科の薬を飲んでいなかったからです。

弁護人
今後どうしたいですか。
被告人
娘と私とハムスターとで静かに暮らしたい。

検察官
出所した場合、あなたを監護してくれる人はいますか。
被告人
いません。娘と2人だけです。

検察官
あなたの母親はどこにいるべきだと思いますか。
被告人
介護施設ではなく、病院にいるほうがよいです。

検察官
精神科の薬は何種類飲んでいますか。
被告人
6種類です。

検察官
事件当日は薬を何故飲まなかったのですか。
被告人
今までも身体の調子で飲んだり飲まなかったりしていました。

裁判長
被害者と廻りの人に言っておきたいことはありますか。
被告人
申し訳ないことをしました。


 論告求刑 
  
検察官
髪の毛を掴んだうえ暴行するなど、執拗で悪質な犯行である。また独善的で短絡的な犯行である。

求刑 懲役1年


 弁護側最終弁論 

弁護人
執行猶予付きの判決を望む。


 裁判の向う側 

先日高速道路のパーキングエリアに認知症の高齢の父親を放置したとして、保護責任者遺棄の疑いで逮捕された事件がありました。認知症の高齢の父親を放置が虐待にあたるのではないかとの議論もありました。

本件も高齢者の介護にまつわる事件です。区役所は娘からの高齢者虐待から保護するために母親を娘から隔離したとしていますが、娘は虐待していないし母親の居場所も教えないのは不当だとして役所に抗議したのですが、行き過ぎた抗議となって職員に暴行を加えてしまったという事件です。

役所は客観的な証拠に基づき、行政措置を行ったことと思いますが、自身が生活しながらも高齢の母親を介護するという厳しい実態のただなかにいる被告人にとっては役所の行政措置が理解しがたく、精神疾患の影響もあって犯行に及んだのでしょう。

高齢者介護は非常に難しい問題を多く抱えています。今後ますます高齢化が進む日本の社会で同様の問題が発生するということは、容易に想像できます。

きれいごとだけでなく、皆がそれぞれ真剣に考える必要があると思います。

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