2019年5月23日木曜日

【裁判傍聴記】犯罪を犯したお母さんが作ったご飯は食べたくない

今回の事件は、定年退職した夫との生活上の不安がストレスに繋がり、そのストレスを解消するために万引きをしたという事件です。被告人の高校生の息子と娘は、母親の万引きにショックを受け、被告人が保釈された際には「家に帰ってくるな」、被告人が家に帰ってからも「悪いことをしたお母さんのご飯はたべたくない」と被告人に対して嫌悪感をあらわにしました。


罪 状 窃盗
被告人 40代後半 女性
求 刑 懲役1年6月 


 事件の概要 

平成30年5月〇日、被告人は自宅近くの大型スーパーで商品を万引きし、店の店員から通報を受けた駆け付けた警察官によって現行犯逮捕されました。しばらく警察署の留置場に留置されましたが、夫が身元引受人となって保釈されました。

平成30年12月×日、被告人は近くのコンビニで商品を万引きし、前回と同様に店の店員から通報を受けた駆け付けた警察官によって現行犯逮捕されました。しばらく警察署の留置場に留置されましたがこのときも前回と同様に夫が身元引受人となって保釈されました。

被告人は、平成28年6月に初めて万引きで逮捕されましたが、起訴猶予となっています。次に平成29年10月にも万引きで逮捕され、この時は罰金刑を言い渡されています。今回は平成30年5月の件と、保釈中の平成30年12月の件の2件が起訴されています。

被告人は、約20歳年の離れた60代後半の夫と、高校生の長男と高校生の長女の4人暮らしです。
夫は最近定年退職し、シルバー人材センターに登録して働いていましたが、現在は無職です。
被告人は持病のリューマチに加え、平成30年に入って前立腺がんが見つかって治療を続けていましたが、平成30年9月には肺がんが見つかり、入院して腫瘍摘出手術をし、現在は薬での治療を続けています。


 弁護側証人尋問 

被告人の夫が弁護側の情状証人として出廷しました。

弁護人
被告人は反省しているか?
証 人
逮捕された当初はショックを受けていましたが、今は二度とやらないと言っています。
自分も見守ると伝えています。

弁護人
クリニックに受診しているか?
証 人
精神科の先生の診断を受けています。

弁護人
コンビニの店長との示談をどうなっている?
証 人
当初は、万引き犯は再犯の可能性が高いということで、示談を拒否されましたが、自分が別店舗の開店に協力するという条件で示談に応じてもらえました。

弁護人
被告人の子供にも迷惑をかけているが?
証 人
息子も娘も思春期の難しい時期ですが、妻が逮捕された直後に話をしました。息子は精神科の医者に診てもらえと言いました。

また二人とも妻(母)の用意したものは食べないと言って食べていませんでしたが、息子は2月に入って食べるようになりました。

息子は今も妻を許すことはできないと言っていますが、1年ぐらいすれば変わるかなとも言っています。息子は不登校になりました。

娘は、今も妻(母)の作ったものは食べませんし、許していません。ただ少し家事を手伝うようになってきました。

弁護人
被告人は過去にも万引きをしているが、子供は初めて知ったのか?
証 人
恐らくそうだと思います。

弁護人
弁護人からのクレプトマニア(窃盗症)の指摘について被告人はどう対応した?
証 人
恐らくクレプトマニアだということで、被告人も同意して臨床心理士の診断を受けました。

弁護人
何度か診療を受けに行ったあと、行っていないのは何故か?
証 人
何故行っていないのか、妻から聞いていません。

弁護人
証人は精神科クリニック2か所に一緒に行っている?
証 人
Aクリニックでは、薬で治すことは困難、本人が治そうと努力すれば治療できると言われた。
Bクリニックでは、治療に来る多くの方(窃盗症)は事件の内容を説明しないが、妻は本音を明らかにして説明してくれた。今までは本音で話ししていなかったため、ストレスを高めることに繋がった。先生は、気付きが大事、良く気付いてくれたと褒めてくれました。
今後は、Bクリニックにしっかり通院し、また依存症の自助グループにも参加して治療を続けさせたいと思っています。

弁護人
証人の病状は?
証 人
30年以上リューマチを患っています。平成30年に入り前立腺がんが見つかり治療を続けていましたが、平成30年9月には肺がんも見つかり入院して手術をうけ、現在は通院して薬で治療中です。

弁護人
被告人の再犯防止への具体的な方策は?
証 人
臨床心理士による心理カウンセリング治療と、依存症自助グループに参加させます。これは妻も受け止めています。その他買い物には妻を単独で行かせないようにし、子供か自分が同行し、あるいは自分が買い物に行きます。

弁護人
被告人が感じている将来への不安は?
証 人
自分と妻は年が相当に離れており、子供もまだ高校生です。
自分は定年退職後しばらく無職でしたが、その後シルバー人材センターに登録して働いていましたが、今は病気で働けません。病気が治ればまた働きます。

妻は自分(証人)の年齢を考え、また自分ががんになったことから不安が増したのだと思います。

今は自分の年金で生活していますが、自分が先に逝っても遺族年金が入りますし、妻も働くと言っていますので、今後も生活していけると考えています。

弁護人
今後も家族全員で被告人を見守っていけますか?
証 人
見守っていきます。

検察官
家計の管理は誰がやっている?
証 人
自分がやっています。

検察官
家計管理が厳しかったのでは?
証 人
自分は東京で勤めていたが、結婚して滋賀に戻り退職金で家も建てた。自分が家計管理しないと難しいとおもっていました。

検察官
証人の家計管理の厳しさを被告人がストレスに感じているのでは?
証 人
被告人もそう言っている。

検察官
被告人に充分に生活費を渡しているか?
証 人
充分と思っていました。


 被告人質問 

弁護人
平成30年5月に逮捕されたとき、弁護人と会って何を言っていたか?
被告人
精神科のカウンセリングに行って治療を受けると言いました。

弁護人
大阪のクリニックでは何をいわれた?
被告人
考え方の問題が大きいと言われました。間違った考え方をしていると。自分自身に対する基準が高すぎてストレスになっていることに気付いていないと言われました。

弁護人
カウンセリングに行っている間は万引きしていない。大阪の大都会で多くの店もある。万引きしてしまうのではという思いはなかったのか?
被告人
大阪までは時間もかかるので、店に入っている時間もない。

弁護人
その後カウンセリングに行かなくなったの何故か?
被告人
子供が夏休みに入り、その後主人が病気になりましたので、カウンセリングに行っていられなくなりました。残された自分でやっていけるのかなという思いも強くなりました。

弁護人
平成30年12月にまた万引きをした理由は?
被告人
主人の手術のお金の心配や、将来の不安のストレスで万引きしてしまいました。計画を立てたり、しっかり考えればよかったと思います。

弁護人
将来の不安は解消できたか?
被告人
主人の遺族年金のことや、私の独身の頃の貯金、私が働くということで、将来の不安は少なくなりました。

弁護人
悪いことをしたら、相手方への賠償金や示談金、裁判の際の弁護人の費用などお金がかかることは分かる?
被告人
分かります。

弁護人
今後は働くのか?
被告人
自分に合った仕事を探して、ストレスがかからない働き方をして、家計のためになるよう働きます。

弁護人
2か所のクリニックに行った理由は?
被告人
継続できる自分に合ったところにしたいと思いました。大阪のクリニックはクレプトマニアの再犯がゼロということで行きましたが、弁護士の先生から大阪は遠いので滋賀県を薦められ「滋賀県立精神医療センター」に行っています。

弁護人
「滋賀県立精神医療センター」に通院して自分自身変わった点は?
被告人
自分が完璧主義で、自分自身への基準を高くしすぎていたことに気付きました。平成30年5月に逮捕されて時の、精神科クリニックの時はそのようには思っていませんでした。
クレプトマニアということを知られたくない、認めたくないという思いが強かったです。

弁護人
依存症の自助グループはどういうところ?
被告人
クレプトマニアだけの依存症グループはあまりないので、いろいろな方が全般的にいる自助グループに参加しようと思っています。

弁護人
子供は寂しがっていたか?
被告人
保釈の時に子供から「悪いことをした。帰ってくるな。」と言われました。ショックでした。子供にはカウンセリングでしっかり治していくと言っています。長男は2週間前に「お母さんのご飯を食べる。」と言ってくれ食べてくれるようになりました。また、まだお母さんのしたことを許せないが、1年ぐらいしたら考えられるとも言ってくれています。

弁護人
今後は家族の援助で再犯しないよう努めるか?
被告人
そのように努力します。

検察官
平成29年10月にも万引きで罰金刑を受けている。このとき留置場に入り、留置場の辛さも充分に分かっているだろうに、その半年後に大型スーパーで万引きしている。留置場の辛さが身に染みていなかったのか?
被告人
あのとき留置場は辛かったが、これは自分ではないとして、自分自身受け入れたくなかったのだと思います。

検察官
反省が足りなかったのか。
平成30年5月の事件では、この事件は裁判を受けてもらうよと言ったはず。
防犯カメラの被告人が犯行する映像を何故見せたのか。それを理解してほしい。万引きは捕まるということを言ったはず。
被告人
分かりました。

裁判長
前回の罰金刑では反省が足りなかったのか、充分反省できたのか、どう違うのか?
被告人
反省していましたが、あの時は欠点のある自分を受け止めていませんでした。今回は欠点を受け入れられたことが前回とは違うと思います。


 論告求刑 

論 告

被告人は逮捕され保釈されて後にも、万引きを繰り返しており酌量の余地はない。
犯行の手口は手慣れたものであり、被害金額は3千円余と小さいと言える額ではない。

求 刑

被告人を懲役1年6月に処すを相当とする。


 弁護人最終弁論 

公訴事実は争わない。
被害金額は弁済しており、被害者と示談も成立している。
クレプトマニア(窃盗症)のカウンセリングに行っていない間に再度万引きをしたが、その後カウンセリング中は犯行に及んでいないことは効果があったと言える。
今後は通院してクレプトマニアの克服と言っており、家族も援助すると言っている。

執行猶予付きの判決を希望する。


 被告人最終陳述 

ありません。



 裁判の向う側 

被告人は万引きをするに至った精神的な原因は、自分自身に対する基準が高すぎたことによるストレスであると陳述しました。
一方で、被告人の夫は被告人と年が相当離れており、また結婚して以来家計の管理は全て夫がやっていて、この家計管理が厳しく被告人がストレスに感じていたとも証言しています。

被告人が自分自身に対する基準を高めたのは、夫の存在ではないのかと私は感じました。夫は被告人の年齢が20歳ほど離れていることから、被告人を子供扱いしていたたため、家計の管理などの大事なことは被告人には任さずにいた。このことが被告人を追い詰めた。「私はできるはず。」という思いがずっとあり、自分自身を高く見せるという心理に至ったのではないか。

私の感じたことが真実かどうか分かりません。あたらずとも遠からじかなとも思います。

もう一点、子供の問題です。
被告人の夫は、子供が万引きをした母親を忌避していることを、思春期も一つの要因と証言していましたが、それだけではないのでは。長男が不登校になったことも考え合わせると、子供は2人とも学校か地域で被告人が原因で「いじめ」を受けているのではないでしょうか。今母親(被告人)は子供と直接コミュニケーションをとるのは難しいでしょうから、父親(夫)は子供としっかりコミニュケーションをとって、もし「いじめ」にあっているのなら、早く手を打ってやってほしいと思います。

犯罪によって崩壊しかけた家族は、家族の気遣いで立て直してほしいと思います。

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