2020年7月18日土曜日

【裁判傍聴記】奥さん、被告人を監督するうえで覚醒剤は再犯するということを知っておいて下さい

被告人は、平成17年に覚醒剤所持で執行猶予付きの有罪判決を受けました。その後は覚醒剤には手を出していなかったのですが、3年前に仕事の関係で知り合ったAから、仕事の手伝いにと元暴力団員のBを紹介されました。そしてBと一緒に行った現場仕事の帰りの車の中で、親しくなったBが実は覚醒剤の売人をしていることを知り、Bからすすめられるままに、またもや覚醒剤に手を出してしまいました。その後は芋づる式に次々とBから覚醒剤を購入し、令和2年2月コンビニの駐車場で覚醒剤を入手したことが発覚し逮捕されました。

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資料画像(by Wikipedia)

罪 状 覚醒剤取締法違反
被告人 50代半ば男性
求 刑 懲役1年

覚醒剤がいかに我々の普通の生活のほんの近くで流通していること、そして覚醒剤を使用している人がほんのすぐ傍にいる、ということが実感として分かります。そして、「類は友を呼ぶ」のことわざどおり、一度覚醒剤に手を染めた者には再び覚醒剤を使わせようという輩が近づいて来ます。薬物事件は再犯が多いという由縁です。

冒頭のタイトル奥さん、被告人を監督するうえで覚醒剤は再犯するということを知っておいて下さい。」は、検察官が証人訊問のなかで、証人として出廷した被告人の内縁の妻にかけた言葉です。


事件の概要

令和2年2月〇日、被告人は京都市▲▲区××町のコンビニ駐車場で、売人BとEから覚醒剤0.5gを13,000円で譲り受けたところを、内偵を続けてきた警察官に現認され、覚せい剤取締法違反の容疑で現行犯逮捕されました。

被告人は、中学を卒業後飲食店で働いた後、とび職に転職して現在はとびの個人事業主として働いていました。離婚歴がありますが、現在は離婚した元妻と、実の息子と娘の5人で同居しています。犯歴は前科2犯、前歴1件があります。

前歴1件については、17歳の時に薬物使用で補導され、少年院に1年入っています。

前科2犯はいずれも薬物事件で、直近は平成16年の38歳の時に覚醒剤使用で逮捕され、翌年の平成17年に懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けています。

被告人は、平成17年に覚醒剤使用の有罪判決を受けて以降、薬物を絶っていました。ところが、平成29年にとびの仕事の関係の知り合いのAから、仕事の手伝いにと元暴力団員のBを紹介されました。現場でBと何度か一緒に仕事をするうちに親しくなりました。そして半年くらいたった頃、実はBが覚醒剤の売人をしているということを知り、BからすすめられるままにBの家で再び覚醒剤に手を出してしまうこととなりました。当時Bからの購入価格は0.5gで、10,000円でした。

被告人は当時Bから社長と呼ばれており、Bは覚醒剤の売買上、被告人のニックネームを「しゃ」として、携帯電話の被告人の登録名も「しゃ」としていました。

その後平成31年初め頃に、Bの家にCが出入りすることになり、とびの現場仕事へはBに代わってBから紹介されたCが手伝いに入ることになりました。同時に覚醒剤の入手ルートはBの下でCが売買するというルートになり、購入回数もひんぱんになっていました。その頃の覚醒剤の使用頻度は月に1回から4回程度でした。そしてその頃には購入価格は0.5gで、13,000円へと大幅に値上がりしていました。

Cと現場仕事に一緒に行くことになって約1年後、現場からCと一緒に車で帰る途中、どうしても覚醒剤が欲しくなった被告人は、Cに「今から欲しい。後払いでいいか。」と尋ねました。CはBに許可をとってくれと言いましたので、被告人はBに電話して後払いの了承をとりました。そして被告人は電話をCに替わりました。BはCに「押し売りしとけ。」と指示しましたので、Cは自宅に帰り覚醒剤を持ってきて被告人に渡しました。警察ではこのときの被告人とB、Cの電話の発着信履歴を入手していました。

被告人は、その後も数回つけ払いで覚醒剤を入手していましたが、起訴状の記載の事件当日の令和2年2月〇日も、被告人からBに電話してつけ払いでの入手を依頼しました。折り返しでBから被告人に電話で受け渡し場所の連絡があり、コンビニの駐車場で覚醒剤を受け取りました。内偵を進めていた警察は、このときのBと被告人の通話を傍受していました。

警察は後に、Cの自宅の家宅捜索を行い、薬4gの覚醒剤を発見・押収し、更にCの立寄り先2箇所でそれぞれ約3g、約3gの覚醒剤を発見・押収しています。

ファイル:Bundesarchiv Bild 102-07741, Berlin, "Koks Emil" der Kokain-Verkäufer.jpg
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証人訊問

被告人の元妻で、現在子供とともに被告人と再度同居している内縁の妻が、弁護側情状証人として出廷しました。

弁護人
証人は被告人とは何時離婚しましたか。
証 人
7年くらい前です。

弁護人
証人の今の生活について教えてください。
証 人
現在ビルのメンテナンス会社で会社員として働いています。息子と娘、そして彼(被告人)と5人で暮らしています。

弁護人
証人は被告人が覚醒剤を使用していたことについて知っていましたか。
証 人
知っていました。知っていました。平成17年に結婚しましたので、彼が覚醒剤で捕まったことも知っていました。その後、離婚しましたが、彼は離婚後別居してはいましたが、子供のめんどうを見てくれていました。

弁護人
証人は、被告人が2年前くらいから再び覚醒剤に手を染めていることや、被告人が付き合っていたBとCを知っていましたか。
証 人
知らなかったです。

弁護人
被告人と再度同居したのはいつですか。
証 人
彼が保釈されてから同居しています。判決が出てどうなるか分かりませんが、社会に復帰した後も同居します。

弁護人
証人は、被告人が社会復帰した際に、再犯を起こさないよう指導・監督してくれますか。
証 人
はい。指導・監督します。

弁護人
被告人への指導・監督は具体的にはどうしますか。
証 人
なるべく休みを合わせ、交友関係も把握します。

検察官
被告人は保釈後仕事をしていますか。
証 人
保釈されてからとびの会社に再就職して、月曜日から土曜日まで1月ほど働いています。

検察官
奥さん、被告人を監督するうえで覚醒剤は再犯するということを知っておいて下さい。もしまた被告人が覚醒剤に手を出したことが分かったらどうしますか。
証 人
すぐに警察に通報します。


被告人質問

弁護人
保釈後、現在はどうしていますか。
被告人
保釈された後、新型コロナの自粛で仕事をとれなくなって知り合いのとびの会社に就職して働いています。

弁護人
覚醒剤の使用頻度はどれぐらいですか。
被告人
2年前から、月に4~5回で月に1回の時もありました。

弁護人
何故また覚醒剤を使ったのですか。
被告人
前の経験があって押さえられなくて使用しました。

弁護人
今はどういう思いですか。
被告人
誘いを断り切ればよかった、Bの家に出入りしなければよかったと後悔ばかりです。今後は一切断ち切ろうと思います。

弁護人
今後BやCとの関係はどうしますか。
被告人
家族に迷惑を掛けたくないので、携帯の電話番号を変えます。

弁護人
内縁の奥さんがこの法廷に証人として出廷して、今後の被告人の指導・監督をすると約束してくれましたが。
被告人
元妻に従います。許してくれれば、一生一緒にいたいと思っています。

弁護人
今後もしBやCが接触してくればどうしますか。
被告人
今後そうなれば元妻に相談してBやCには近寄りません。元妻としっかり関係を築きます。

検察官
最初にBを紹介したAは、Bが覚醒剤の売人ということを知っていたのですか。
被告人
知っていました。Aも過去に覚醒剤で逮捕歴があります。

検察官
覚醒剤の入手手順はどうなっていましたか。
被告人
Bに注文して、Cが受け渡し場所まで配達するという手順で、受け渡し場所はCと自分の現在地から近い場所のコンビニの駐車場でした。はじめはBが配達していましたが、直近はCが配達していました。1年ほど前からBの位が上がったようです。

検察官
逮捕されるきっかけとなった2月〇日の覚醒剤の代金は。
被告人
払っていません。いつもならBから電話がかかってきていましたが、今回は電話がかかってきません。(・・・それはBも捕まったからでしょう。)

裁判長
2年前に再び覚醒剤を始めてから、やめようと思うことはなかったのですか。
被告人
何度もありましたが、Bから押し売りの電話があってずるずると続けてしまいました。

裁判長
以前平成17年に執行猶予付きの有罪判決を受けた後はやめていますね。
被告人
あのときは、元妻と結婚して子供も出来て、家族を守るという責任感からやめることができました。

裁判長
もし今後、覚醒剤をやめられないということになったらどうしますか。
被告人
もしそうなったら、その時は専門機関に行きます。


論告求刑

論 告
被告人は、覚醒剤への依存性・親和性・常習性があり、酌量の余地はない。10年以上前にも覚醒剤で有罪判決を受けていながら再犯に及んでおり、規範意識が鈍磨して再犯の可能性が大きい。加えて売人のBは元暴力団員であり一般予防の見地からも、被告人を厳罰に処すべきと思料する。

求 刑
被告人に懲役1年を求刑する。


弁護人最終弁論

被告人は逮捕後、事実を正直に話し、捜査に協力しています。罪を深く反省していることは十分信用できます。被告人の元妻も指導・監督を約束しています。被告人の覚醒剤に対する親和性・依存性はそんなに高くなく再犯の可能性は低いと考えます。

よって執行猶予付きの寛大な判決を希望します。


被告人最終陳述

再犯してしまいました。元妻は大変ありがたいと思っています。仕事をしっかりして再犯しないようにします。


裁判の向う側

現在、覚醒剤や大麻、違法薬物はSNSを使って誰でも簡単に手に入れられます。Twitterで少し検索すると売人が見つかるそうです。青少年が面白半分に手を出して抜けられなくなる
典型的なルートです。

また、悪い奴らは社会の中に入り込んで、薬物を使いそうなカモを狙っています。手っ取り早いのは一度でも薬物に手を染めた者たちです。彼らは簡単に再犯してしまいます。いくつかの裁判で簡単に再犯した被告人が再び裁かれていました。今回の被告人も「類は友を呼ぶ」だったのでしょう。類が見れば経験者は分かり友が呼ばれました。被告人は友からカモにされました。

薬物には、依存性や常習性・親和性があります。一度手を出すとなかなかやめられないそうです。そして背後の組織がやめさせないようにします。組織の金づる・資金源です。たやすく手放してはくれません。

皆さん、ゆめゆめ興味半分で手を出すことのないようにしましょう。後の人生は終りです。

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