2020年6月23日火曜日

【裁判傍聴記】近所の住民とのいざこざでムシャクシャしていたので目についた人を殴りました

被告人は回転ずしの代金が高いとクレームをつけて店を出た後、たまたま用事で回転ずしの店を訪ねてきた近くの農家の高齢者を殴りました。被告人は、最近家の近所の住民といざこざがあってムシャクシャしていて、酒のいきおいもあって目についた人を殴ったと供述しています。


罪 状 暴行罪
被告人 70代前半男性
求 刑 懲役1月


定年退職後の高齢者の悲しい事件です。超高齢化社会の日本では、今後益々この種の事件が増えることでしょう。このようになることを自覚して高齢化していきましょう。いつも明るく前向きに、そのためには健康が一番です。

なお、「暴行罪」と「傷害罪」はどう違うのか、今回被告人は相手を殴っているのだから「傷害罪」ではという疑問があると思いますが、両者の違いは次のとおりです。暴行を加えたが相手が傷害(ケガ)を負わなかった場合が「暴行罪」で、相手が傷害(ケガ)を負った場合が「傷害罪」となります。ここでいう「暴行」や「傷害」は外形的なものだけでなく、精神的なものも含まれるということです。

「暴行罪」は、「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」となっており、「傷害罪」は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となっていて、「暴行罪」と「傷害罪」では刑罰においても大きな差があります。


事件の概要

令和2年4月〇日午後3時頃、回転ずし店を出た被告人は、回転ずし店のトタン板がめくれていると店に知らせに来た、近くの農家の70代前半の男性に出会い、左下腿部を蹴り、右顔面を手拳で殴打しました。

騒ぎに気付いた店員が警察に通報し、被告人は駆け付けた警察官によって「暴行罪」の現行犯で逮捕されました。なお本件では、被害者にケガが認められなかったため、「傷害罪」ではなく「暴行罪」で起訴されたものです。

被告人は、回転ずし店に来る前缶酎ハイを1本飲んでいました。回転ずしで食事を終えた被告人は、会計の際に「そんなに食べた覚えがない。高い。」とクレームを付け、お茶の粉末まき散らしましたが、結局は請求された代金を支払って店を出ました。

被告人は、警察の調べに対し、暴行したことを「覚えていない。被害者が言っていることが正しい。」と供述しており、また「何故やったのか分からない。」とも供述しています。

被害者は、回転ずし店の隣の自身の田んぼで仕事をしていましたが、店の外壁のトタン板がめくれているのに気付き、店に知らせてあげようと店を訪ね、丁度店に入る直前に被告人とバッタリ出くわし、殴られたのでした。

被告人は、最近家の近所の住人といざこざがあり、「土下座して謝れ」と言われ土下座して謝ったこともあり、気分的にムシャクシャしていたと供述しています。

被告人は中学を卒業後、配達の仕事をしており、65歳で定年退職し、事件当時は無職でした。子供は娘が2人いますが2人共に嫁いでおり、被告人は一人地元で暮らしていました。

被告人には、前科が3件、罰金が1件あり、いずれも同種累犯事件です。前件は、コンビニで客に暴力を振るい実刑判決が出て刑務所に入っています。この時も今回と同様に事件の前に酒を飲んでいました。

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資料画像(by Pixabay)

被告人質問

弁護人
今回の事件のことは、起訴状のとおりで間違いありませんか。覚えていますか。
被告人
うっすらと覚えています。平手で顔を叩いたと思います。

弁護人
被害者は殴られたと言っていますが。
被告人
それで間違いないと思います。

弁護人
何故殴りましたか。
被告人
理由は覚えていません。地元でいざこざがあり、「土下座して謝れ」と言われ土下座して謝ったこともあり、気分的にムシャクシャしていた

弁護人
回転ずしのトラブルは関係ありませんか。
被告人
店のトラブルと暴行は関係ありません。

弁護人
覚えていないというのは。
被告人
2~3年前から物忘れが多くなり、ちょっと前からど忘れがひどくなりました。

弁護人
今回も事件前に缶酎ハイを飲んでいましたね。
被告人
多少酔っぱらっていました。

弁護人
以前にも酒を飲んで傷害事件を起こしていますね。酒はやめますか。
被告人
やめます。

弁護人
以前の事件のときもやめると言っていますね。
被告人
分かりません。

弁護人
被害者は場合によっては病院に行っていましたよ。
被告人
被害者の方に対しては悪いことをしたと思っています。

弁護人
弁護人から被害者に2万円で示談を申し入れたところ、5万円を要求されていますが。
被告人
新型コロナウィルスの定額給付金から5万円出します。

検察官
何故やったのですか。
被告人
分かりません。酒のせいかなとも思っています。

検察官
前件でも、コンビニで客に暴力を振るって実刑判決が出て刑務所に入っていますね。この時も酒を飲んでいましたね。
被告人
普段から「カーッ」とならないようにと思って、他人と関わらないようにして、近所でも外に出ても他人しゃべらないようにしてきました。

検察官
酒を断つために医療機関にかかるということを考えていますか。
被告人
これから考えていこうと思っています。

裁判長
家族の方はいますか。
被告人
娘が2人と、長女の子の20歳過ぎと20歳の孫がいます。長女とは電話で話をしていますが、次女とはいろいろあって10数年前から音信不通になっています。

裁判長
長女の方や孫とはどれぐらいの頻度で会っていますか。
被告人
1~2ヶ月に1回程度です。前回の事件の服役中に上の孫が面会に来てくれました。

裁判長
今回の事件のことを娘さんに話していますか。
被告人
申し訳ない気持ちがあって言いづらいのです。


論告求刑

論 告
回転ずし店での飲食代金のトラブルや、近隣住民とのトラブルで、ムシャクシャしていたための犯行で身勝手な犯行である。過去に2度の懲役刑があり、前刑の仮釈放後2年で今回の事件を起こしている。一般予防の見地からも、矯正施設に収容して更生させることが肝要と判断する。

求 刑
被告人に懲役1月を求刑する。


弁護人最終弁論

被告人は反省しています。酒については復帰後病院で治療する旨供述しています。よって被告人に再犯の恐れはないと思料します。被告人には罰金刑が妥当と判断します。


被告人最終陳述

特にありません。(謝罪と反省の弁を述べてほしかったなーーー。)


裁判の向う側

定年退職した高齢者が犯しそうな事件です。何もすることがないので、常に何かにムシャクシャして、誰でもいいので当たりたかったのでしょう。現役時代のように他人と関わることができず、自分の過去の栄光を誰も理解してくれない。

「ええいままよ!」と酒でも飲んで忘れようとしてしまう。ところがこれが悪循環、酒を飲むと余計に過去のことがよみがえってくる。すると余計にムシャクシャしてきて、ついつい近所の人に小言を言ってしまう。するとまた言い返されて余計にムシャクシャする。

誰でも陥りやすそうなことです。「老害」と言われないように明るく溌剌とした高齢者でいてください。

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