2019年5月19日日曜日

【裁判傍聴記】派遣を転々としているのに親は何をしているんや

派遣社員として工場に勤めていた被告人は、派遣先の工場の社員から心ない言動を浴びせられ我慢できなかったため、派遣を辞める決心をしました。ところが派遣先の寮を出て生活するにあたりお金もないことから、寮の個室部屋に備え付けてある会社のテレビ、冷蔵庫、洗濯機を売却しようと思い、インターネットで検索した中古品買い取り会社に連絡して、翌日引き取りにきてもらい約1万円を手に入れました。


被告人はとある人材サービス会社から、滋賀県内の個室の寮のある工場に派遣され、その工場の寮に住み込んで働いていました。
ある日被告人が事務所の休憩所でタバコを吸って休憩していると、面識のない男性社員3人が話しかけてきました。話しているうちにその男性3人から

「派遣を転々としているのか。そんなことをしていて親は何をしているんや。親は無責任と違うんか。」

となじられました。被告人は自分のことのみならず親のことまでなじられたので、その日は仕事を早退し寮に帰りました。いろいろ考えた末に人材サービス会社を辞める決心をして、その旨を上長に伝えました。

被告人は寮を出て生活するにあたりお金もないことから、寮の個室部屋に備え付けてあるテレビ、冷蔵庫、洗濯機を売却しようと思いました。被告人はインターネットで検索した中古品買い取り会社に連絡して、翌日引き取りにきてもらい約1万円を手に入れました。

被告人はそのお金を手にして寮を退寮して人材サービス会社も退職しましたが、会社が被告人が退寮した部屋を確認したところテレビ他が無くなっているため、警察に通報し捜査の結果、被告人は逮捕されることとなりました。会社側の被害額は3点合わせて3万円弱でした。

会社側との示談は成立し、被害額全額を弁済し示談書と領収書も弁護側証拠として提出されました。 

被告人に前科・前歴はありませんでした。 


 被告人質問 

(弁護側)

弁護人 
何故やったのですか。  
被告人 
会社の人から嫌なことを言われました。会社を辞めようと思いましたが、所持金が無かったので売りました。

弁護人 
嫌なこととはどのようなことを言われたのですか。
被告人 
事務所の休憩所でタバコを吸って休憩していた時のことです。面識のない男性社員3人が話しかけてきて

「派遣を転々としているのか。」
「そんなことをしていて親は何をしているんや。」
「親は無責任とちがうんか。」

となじるように言われました。

弁護人 
その後どうしましたか。
被告人 
そのまま更衣室に行き、着替えて仕事は早退して寮に帰りました。寮に帰ってから会社を辞めることに決め、上長に連絡しました。

弁護人 
その後どうしましたか。
被告人 
所持金が1万円程度しか無かったので、寮の部屋にあったテレビと冷蔵庫、洗濯機を売ってお金にしようと思い、リサイクルショップに連絡して寮に来てもらい売り払いました。

弁護人 
いくらになりましたか。
被告人 
約1万円です。

弁護人 
自分の物でないものを売り払うときに悪いとは思いませんでしたか。
被告人 
その時は罪悪感はありませんでした。

弁護人 
逮捕されて検察官や弁護人と話をして、今現在はどう思っていますか。
被告人 
身勝手な行動で大変申し訳ないことをしたと思っています。

弁護人 
この後はどうしようと思っていますか。
被告人 
17年前に出て、その後帰っていない四国の実家に帰ってやり直したい。

弁護人 
四国の実家で面倒を見てくれる人はいるのですか。
被告人 
地元にいる妹の世話になることで話ができています。


 論告求刑 

検察官 
懲役1年を求刑します。


 弁護人最終弁論 

弁護人 
被害金額も少額で、被害者への弁済と示談も成立している。この後は実家に帰り、妹が監護するため再犯の可能性はない。執行猶予付き判決を願います。


 裁判の向う側 

社会的に正規雇用と非正規雇用の格差是正が話題に上がることが多いですが、現実はまだまだ非正規雇用の雇用環境は厳しいものがあります。また非正規雇用で働く人たちに対するまわりの目も冷たいという実態もあります。

今回の事件は正規社員が非正規社員を、自分の下として見る意識が、パワハラかセクハラともとれる無神経な言動となり、これへの怒りが犯行の動機となったのではないのか、と感じました。被告人はこの言動を自分だけでなく親をも侮辱する言動と感じ、怒りそして自棄になったのではないのかと感じました。

もちろん、原因は何であれ他人の財産を売り飛ばすという、身勝手な窃盗行為は許されるものではないことは言うまでもありませんので、被告人は猛省してしっかりと罪を償って二度と犯罪行為を犯すことのないよう心してもらいたいと思います。

被告人が更生して幸せな人生を送っていくことを祈りたいと思います。

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