2019年5月24日金曜日

裁判傍聴のすすめ その5 「裁判所書記官」「裁判所あるある」

前回は「裁判傍聴のすすめ その4 「セクハラ裁判事例」や「裁判ミニ知識」「裁判所あるある」をご紹介させていただきました。今回も、前回に引き続き刑事裁判をメインに「裁判ミニ知識」や、「裁判所あるある」をお話させていただきます。
「裁判所あるある」では、民事裁判のうちの「離婚事件」でのあるあるをお話させていただきます。



「裁判ミニ知識」

裁判所書記官

法廷で裁判長の前の一段下の席に座って、裁判長の法廷指揮ももとで裁判が円滑に進むよう裁判事務を執り行うのが「裁判所書記官」です。

テレビで裁判の報道がされる場合に、開廷前の法廷の姿が画面に映し出されますが、裁判官の前の一段下で裁判官と一緒に「裁判所書記官」も映し出されています。

裁判を傍聴している我々が見ることが出来る「裁判所書記官」の仕事は、法廷での姿だけですが、実は裁判所法や民事訴訟法、刑事訴訟法に規定された重要な仕事をしているということで、今回は「裁判所書記官」について紹介したいと思います。

とはいえ、残念ながらそんな知識は持ち合わせていませんので、現行法の規定や最高裁判所のホームページの紹介記事、Wikipediaから引用させていただいて、紹介させていただきます。

それではまず、法律では「裁判所書記官の職務と責務」をどのように規定しているのか、見てみましょう。

裁判所法

第六十条 (裁判所書記官) 各裁判所に裁判所書記官を置く。
2 裁判所書記官は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務を掌る。
3 裁判所書記官は、前項の事務を掌る外、裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行なう法令及び判例の調査その他必要な事項の調査を補助する。
4 裁判所書記官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う
5 裁判所書記官は、口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる。

・・・裁判官の命令に従う義務はありますが、裁判官から指示を受けた書類の作成や変更の際に、裁判官と対等に自分の意見を書き添えることができるのですね。

民事訴訟法


1.事件に関する調書・記録の作成および保管民事訴訟法160条)

2.訴訟費用額の算定(民事訴訟法71条)

※訴訟費用とは、印紙、予納郵券、証人の旅費・日当、鑑定費用等があります。

3.送達事務(民事訴訟法98条2項、100条、107条)支払督促の発付等(簡易裁判所書記官、民事訴訟法382条~396条)
※送達事務とは、訴訟上の書類を当事者や関係人に送り届けることです。

4.執行文の付与民事執行法26条)

※執行文とは、民事執行手続で、請求権が存在し、強制執行できる状態であることを公証するために、裁判所書記官が付与する文言のことです。 通常、「債権者Aは、債務者Bに対し、この債務名義に基づき強制執行することができる。」 という内容となります。

5.民事執行手続における物件明細書(民事執行法62条)及び配当表の作成(民事執行法85条5項)事件の進行管理(民事訴訟規則61条2項、63条1項、162条2項等)

※1物件明細書とは、不動産の表示、不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの、売却により設定されたものとみなされる地上権の概要を記載した書面まことを言います。※2配当表とは、差し押さえ財産を換価して、債権者ごとに分配する配分表のことです。
※事件の進行管理とは、民事訴訟手続きに関する進行の管理を言います。

・・・民事訴訟の事務手続きの重要な部分を担当しているのですね。

刑事訴訟法

1.事件に関する調書・記録の作成および保管刑事訴訟規則37条)
2.送達事務刑事訴訟法54条)
※民事訴訟法と同様の事務手続きです。

3.調書判決の作成(刑事訴訟規則219条)

調書判決とは、裁判官による判決書の作成に代えて、裁判所書記官に主文その他の定められた事項を判決宣告の日の公判調書にそれぞれ記載させることを言います。

4.無罪判決確定等の場合の被告人に対する補償額の計算(刑事訴訟規則138条の3)

※無罪判決確定後の補償額とは、刑事訴訟法第188条2項に規定する「無罪の判決が確定したときは、国は、当該事件の被告人であった者に対し、その裁判に要した費用の補償をする。」です。

5.事件の進行管理(刑事訴訟規則178条の3、同条の9等)

※民事訴訟法と同様の事務手続きです。

・・・無罪判決確定等の場合の被告人に対する補償額の算定などは、冤罪による国家賠償なども絡んで大変難しい裁判事務でしょうね。


次に、最高裁判所ホームページの紹介記事から引用して抜粋させていただきます。

裁判所書記官は,適正な手続を確保するため,法廷でのやりとりを法律的に構成した上で,必要な事項を記載した調書を作成したり,判決等に執行力を与えるための要件である執行文を付与したりしています。
裁判所書記官によって作成された調書は,法廷でどのようなことが行われたかなどを公に証明する文書であり,法廷で行われた内容は,調書によってのみ証明されるという強い効力が認められています。
裁判所書記官は,適正・迅速な裁判を実現するため,裁判官と協働して裁判運営を支えています。
例えば,民事訴訟においては,裁判官との密接な連携の下,訴状に不備があれば原告に補正を促したり,期日を充実したものとするために弁護士や訴訟当事者等に必要な準備を促したりするなどして訴訟の円滑な進行を確保するために重要な役割を果たしています。
刑事事件においても,検察官や弁護人から必要な情報を聴取して,適宜準備を促すなどして同様の重要な役割を果たしているほか,裁判員裁判においては,くじで選定された裁判員候補者の呼出しや,裁判員等選任手続への列席・調書の作成といった事務も行っています。
また,家事事件や少年事件においても,事件の種類や内容に応じて様々な事務を行っており,適正・迅速な裁判を実現するための重要な役割を担っています。
さらに,裁判所書記官は,紛争を抱えて裁判所に来庁した人に対して手続の流れや申立ての方法を懇切に説明したりして,適切な紛争解決に結びつけるよう努めています。

なるほど、「裁判所書記官」は、法廷で見ているだけでは分からない、大変重要で難しい仕事をしているのですね。


それでは、「裁判所書記官」になるにはどうすればよいのでしょうか。
最高裁判所ホームページの紹介記事では次のように記載しています。

 裁判所書記官は,裁判手続のあらゆる場面において,その高度な法的知識に基づいて,
 様々な事務を担当し,適正迅速な裁判の実現に重要な役割を果たしていることから,高い
 法律的素養を身につけなければなりません。そのため,裁判所書記官になるには,裁判所
 職員として採用された後,裁判所職員総合研修所において研修を受けて必要な知識等を修
 得することが必要です。

具体的には、次のようになります。(引用:Wikipedia)

裁判所事務官等として裁判所に採用された後、裁判所職員総合研修所書記官養成課程入所試験(もしくは書記官任用試験)に合格したうえで一定の研修等を受けて、初めて裁判所書記官としての資格を得ることができる。

研修施設としては、埼玉県和光市裁判所職員総合研修所があります。書記官養成課程は、法学部(法科大学院履修者を含む。)卒業者が対象の第一部(研修期間約1年)、それ以外の者が対象の第二部(研修期間約1年半)があり、前者はおよそ160~240名、後者は100名程度です。毎年2月頃までに研修を修了し、全国の裁判所で裁判所書記官として3月から任官されます。

書記官は裁判長の前の一段下の席


「裁判所あるある」

「離婚事件裁判」その1

原告は40代前半の妻で代理人とともに出廷しています。ところが被告の夫側は本人も代理人も出廷していません。原告の妻は離婚の確定と、別居中に支払われなかった生活費の支払い、慰謝料の支払いです。

原告側の妻の証言によりますと、これまでの経緯は、10年ほど前に何も言わず突然夫が家から出て行きました。その後約5年間は生活費を同居していた時に渡されていた金額と同額が、妻の口座に振り込まれていましたが、5年位前からは振り込まれる金額が半分以下になったというものです。
この10年間、妻は夫がどこに住んでいるのか分からりません。また一切連絡もありません。
妻は、この状態は夫婦関係は完全に破綻しているとして、離婚請求訴訟に踏み切ったのです。籍が入ったままでは、お互いに次の生活に踏み切ることができません。

原告である妻側からは、生活費の振り込み状況が分かる預金通帳の写しや、家賃の支払い明細などの書面が証拠書証として提出されました。

当日は3回目か4回目かの法廷だと思いますが、被告人の夫は代理人も含め、一度も出廷せず、答弁書も提出していないようです。

裁判所としても、被告人が何を考えているのか測りかねているようですが、それはそれで被告人欠席でも裁判手続きは進みます。妻も粛々と裁判手続き進め、判決の言い渡しを待っているだけだと思います。

どろどろとした言い争いもなく、離婚手続きが進む、物悲しい法廷でした。


「離婚事件裁判」その2

この事件も妻がわからの離婚請求訴訟でした。
当日の法廷には、原告の妻は出廷せず代理人のみ出廷し、被告側は夫のみの出廷です。

被告の夫は、年金を受給していると言っていましたので、おそらく65~70歳ぐらいでしょう。弁護士に依頼する費用もなかったと思います。裁判所書記官に手続きを聞いていましたが、専門用語が全く理解できないようでした。裁判長が「主張したいことがあれば、陳述書を提出しないさい。」と言っても理解できないため、手続きがたびたび中断して、書記官が補足して説明していました。

原告の妻の年齢は分かりませんでしたが、小学生の娘がいると言っていましたので、40代後半から50代前半だと思います。20歳程度、年の離れた夫婦です。

妻の要求は、離婚と娘の親権の確保のようでした。
結婚しても、「アルコール中毒や薬物中毒で、まともに働いていなかった。」とは被告である夫自身が供述し、現在も依存症の治療プログラムを受けているとも言っていました。

被告である夫は「離婚には応じるが、娘の親権は渡さない。」と主張しています。
娘の親権を主張する夫は、娘の養育環境はどのように考えているのでしょう。年齢や依存症のこともあります。

結局、その日の法廷では、次回期日に向けて被告人が何を準備するのかということの整理で終わりましたが、閉廷後に原告である妻側の代理人弁護士から諭されていましたので、次回期日あたりで結論が出るのではないでしょうか。

今回の事件では、娘が犠牲になることのない結論にしてほしいものです。

次回の「裁判傍聴のすすめ その6 では「裁判員制度」と「裁判所のセキュリティチェック」などについて紹介させていただきます。

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