2019年5月22日水曜日

【裁判傍聴記】テレパシーで話せるストーカーに弁償させます

被告人は近くのスーパーで、焼酎他5点800円相当を万引きし、駆け付けた警察官に窃盗の現行犯で逮捕されました。
被告人は被告人質問で万引きの理由を聞かれ、「勤めていた警備会社にストーカーからのクレームが入ったため給料が減り、金が無くなったから」と陳述しました。
ストーカーして嫌がらせをしているのは、「佐藤太郎(仮名)という男で、夜でも今でも悪口が聞こえる。テレパシーで佐藤とは話が出来る。」とも陳述しました。


罪 状 窃盗
被告人 70代後半 男性
求 刑 禁固2年


 事件の概要 

平成30年11月×日、被告人は近くのスーパーで、缶コーヒーや酎ハイ他5点700円相当を自身の上着の胸元の中に入れて万引きし、店を出てトイレに入ったところで店の保安員に確保されました。このときは万引きした商品を還付したことで釈放されました。

平成30年12月△日、被告人は11月とは別のスーパーで、焼酎他5点800円相当を万引きしました。

万引きの手口は、パン2袋はシャツの胸元に入れ、チーズ2箱はズボンのポケットに入れ、焼酎・缶コーヒーなどは上着の胸元に入れて店を出るというバレバレなものでした。被告人は店を出てトイレに入ろうとしましたが、トイレの前の通路まで保安員が追いかけて確保されました。その後、店長が警察に通報し、被告人は窃盗の現行犯で逮捕されました。逮捕されたとき、被告人の所持金は500円でした。

被告人は、九州の大学を中退後、会社員や派遣社員をしながら生活しており、離婚歴があります。

被告人は、前科が5件あり、内1件は傷害で実刑、内1件は万引きで罰金刑、内1件は万引きで執行猶予、内2件は万引きで実刑となっています。

被告人は、平成19年9月から、2月に1回24万円の年金を支給され、これで生活していますが、酒が生活に優先するため、支給された翌月の中頃にはお金が尽きてしまう状態を繰り返していました。


 起訴状朗読 

検察官が事件の概要に記載した事実を公訴事実として朗読しました。


 罪状認否 

被告人 起訴状のとおりです。

弁護人 公訴事実は争いません。


 冒頭陳述 

検察官が、事件の概要に記載した内容について陳述し、証拠請求しました。

弁護人は、検察官が申請した証拠について全て同意したため、証拠調べを行いました。


 弁護側立証 

弁護側は以下の3点を証拠として申請しました。

1.平成30年11月の事件に対する被害弁済の示談書と領収書
2.平成30年12月の事件に対する被害弁済の示談書と領収書
3.被告人の妄想障害については被告人質問で明らかにしたいとの旨


 被告人質問 

弁護人
過去に起訴されたことは?
被告人
福岡であったが不起訴となりました。

弁護人
平成23年に長浜支部での万引きの裁判で、二度としないと言っているが今回またやっているが?
被告人
平成27年頃から、ストーカーが勤めていた警備会社に根も歯もないクレームや嫌がらせを入れてきた。そのせいで給料が減った。万引きの直接の原因は給料が減ってお金がなくなったからです。
ストーカーは佐藤太郎(仮名)といい、嫌がらせは今この時点でも夜でも聞こえる。
佐藤は今現在も自分の部屋をめちゃくちゃにして、物を持ち去っている。

弁護人
被告人は、佐藤とテレパシーで会話できる?
被告人
テレパシーで佐藤と話せます。

弁護人
被害者に対する気持ちは?
被告人
悪いと思っています。申し訳ありません。謝罪文も書きたいと思っています。

弁護人
被告人にあらわれるクレーマーの存在は妄想性障害のあらわれだと思うが、治療を受ける気はあるか?
被告人
治療を勧められても受ける気はありません。

弁護人
年金で生活しようと思っているのか?
被告人
全ては佐藤から損害を弁償してもらってからです。

検察官
酒は好きか?行きつけのスナックに飲みに行っているのか?
被告人
酒はほどほどに好きです。スナックにはあまり行っていません。

検察官
スナックのママにお金を借りているそうだが、返す気はあるのか?
被告人
返す気持ちはあります。

検察官
酒を飲むことを辛抱して、年金だけで生活する気はないのか?
被告人
年金だけで生活するよう努力してきました。

検察官
頼れるひとはいるのか?
被告人
婚約者がいます。

検察官
生活が苦しいことについて、役所に相談に行ったのか?
被告人
以前に社会福祉協議会に相談に行ったが、今は行っていません。

検察官
飲み屋で金を使うより、まっとうな生活をしようと思わないのか?
被告人
そうは思うが、カラオケ程度は行きたいです。

裁判長
今後はまっとうな生活を送ると約束できるか?
被告人
約束します。


 論告求刑 

論 告
被告人は年金が酒で少なくなると万引きを繰り返している。
平成21年執行猶予、平成24年実刑、平成26年実刑と繰り返している。
手慣れた手口を繰り返しており、規範意識が欠けている。

求 刑
懲役2年


 弁護人最終弁論 

情状として下記の3点を主張する。
1.今後年金で被害の回復を図るとしている。
2.被告人本人は反省している。
3.遠因として、佐藤なる人物による嫌がらせを主張する妄想性障害があるが、これについての責任能力は争わない。

以上のことから、被告人を社会内で更生することが望ましく、執行猶予付きの判決を願う。


 被告人最終陳述 

今後は、絶対に犯罪行為は行わないことを誓います。それができるようになってから、カラオケに行きたいと思っています。


 裁判の向う側 

以前私の知りあいが、家族の一人が多重人格障害で大変苦労していると言っていました。最もひどい時には心の中に7人の人格がいて、7人の人格がけんかするときが最も大変だということで、特に夜になると7人全員の人格が出てきて眠れないということでした。
精神疾患は健常者には理解しがたい症状を抱えています。

今回の事件の被告人は妄想性障害ということです。妄想性障害とは、命を狙われている、嫌がらせを受けている、逆に好意を寄せられているといった妄想が1月以上持続する心の障害です。

今回の事件で弁護人は、被告人の妄想性障害の疑いは主張したものの、万引き行為に対する責任能力は争わないとしました。確かに被告人質問を聞いていると、問題はそこではなく、被告人自身の生活設計が大きな問題ではないかと感じました。

被告人は70代後半。病気を治療して、穏やかな余生を送ってほしいものです。

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