2019年5月24日金曜日

【裁判傍聴記】大阪から九州まで新幹線とタクシー使い泥棒行脚

追起訴 平成30年7月〇日、被告人は九州の熊本市内の鍵の掛かっていない住宅に侵入して現金93万7千円を窃取しました。
被告人は熊本市までは大阪から新幹線で、熊本駅からはタクシーで住宅街に向かい、侵入する住宅を物色して犯行に及びました。
被告人は、平成30年7月にO市内での「住居侵入」と「暴行」で逮捕され起訴されていたため、熊本市内の犯行も被告人の犯行と判明し、追起訴されたものです。



罪 状 住居侵入、窃盗、暴行
被告人 30代後半男性
求 刑 懲役4年

審理に入る前に、裁判長は4月の人事異動で前回まで本事件を担当していた裁判官から事件を引き継いだとして、被告人に前回起訴されていた2件の事件についての認否を改めて問いました。
被告人はこのとき、認否について2件とも認めるとしたうえで、住居侵入の事件の犯行目的について、前回の法廷では「のぞき目的」と供述していものを、「窃盗目的」に変更しますと陳述しましたが、裁判長は被告人質問で明らかにするとして、認否としては採用しませんでした。

(余談ですが、4月の人事異動で転任してきた裁判官は超イケメンです。そして法廷では被告人に向かって「裁判官の○○です。よろしくお願いします。」などソフトな語り口で訴訟指揮にあたり、まさに「天もたまには二物を与えるんかいな。」と思えるような裁判官です。)


 事件の概要 

今回の裁判では、起訴状は追起訴の前に2件出ています。1件目はO市内での住居侵入で、2件目は1件目の事件の際、被告人を捕まえようとする被害者を被告人が殴ったとする暴行事件です。そして3件目の追起訴分が、九州の熊本市内の住宅へ侵入しての窃盗です。

時系列では、追起訴された3件目の熊本市内の事件の方が先になりますので、そちらから記載していきます。

平成30年7月〇日(上旬)、被告人は大阪から新幹線で九州の熊本市に到着した後ラブホテルに宿泊し、タクシーで住宅街に向かいます。住宅街に着いた被告人はタクシーを降り、徒歩で無施錠の住宅を物色してまわり、被害者宅が鍵が掛かっていないことを確認して侵入しました。

被害者宅に侵入した被告人はプラスチックケースに入れられた90万円の現金と貯金通帳を発見し、現金のみ自分のポケットに入れました。その後なおも同じ住宅のなかを物色して3万7千円の現金を発見し、これも自分のポケットに入れてその住宅を出ようとしたところで、被害者宅の住人に見つけられたため、逃走して逃げ切りました。
このときの被告人の服装は、冒頭のイラストにあるような「黒っぽい長そでのTシャツ」を着て、手には「ペンライト」を持っていました。

このときの被害者の目撃証言と、防犯カメラの映像からO市内で住宅侵入と暴行で逮捕されている被告人が、同一人物であることが判明し、逮捕にいたったものです。なお警察では防犯カメラに映った犯人と思われる人物が被告人と同一であることを立証するために、マネキンに押収した被告人の着衣を着せて防犯カメラで撮影し双方の映像が同じであることから、押収した着衣が犯行に使われたものであることを確認したそうです。

被告人は、大阪から新幹線で途中の中国地方の広島市で下車して、広島市内でも熊本市内の犯行と同様の手口で住宅侵入盗に及び、さらに九州の福岡市内でも同様の犯行に及んでいました。

被告人はヤミカジノにはまり、窃盗で得た金はヤミカジノにつぎ込んでいたほか、飲食代風俗で使用していました。

起訴はされていませんが、広島市内や福岡市内での犯行でも相当な額の金を窃取していたものと思われます

そして、平成30年7月×日(下旬)、被告人はO市内で同様に住宅に侵入し現金を窃取しようとしましたが、被害者に発見され捕まえられて警察に通報され、住居侵入と暴行の現行犯で逮捕されました。
暴行について被告人は、被害者からタックルされてこれを振りほどこうとしたときに手を振り回したが、これが被害者に当たったと弁明しましたが、法廷では「殴ったと思われても仕方ない」と陳述しました。

被告人は、O市内での犯行でも「黒っぽい長そでのTシャツ」を着て、手には「ペンライト」と「ドライバー」を持っていました。

ドライバーを持っていたことについて被告人は、「ドライバーは意味がない」と弁明しました。(防御目的として持っていたと言うと「凶器」として所持していたことになり、「強盗未遂」ともとられかねないとの判断があったのでないかと思います。)

被告人には、同種前科が何件かあり、前回は平成27年9月に住居侵入で懲役刑の実刑判決を受け、平成29年6月に刑務所から出所しました。出所後はM市内の飲食店で働いていましたが、1人の同僚から前科持ちであることをばらされ、自分の立場がなくなりヤケになってヤミカジノに手を出し、この資金を稼ぐために住宅侵入盗を計画したということです。


 罪状認否 

追起訴分について被告人:認めます。 弁護人:被告人と同意見です。


 冒頭陳述・証拠申請・証拠調べ 

検察官が事件の概要に記載の追起訴内容を陳述し、検察側の証拠調べを申請しました。

これに対して、弁護人が全て同意としたため、検察側の証拠調べが行われました。


 弁護側証拠申請・証拠調べ 

弁護人は書証2通と証人訊問を申請し、検察官が同意したため証拠調べが行われました。

弁1書証:九州の熊本市内の被害者への被害弁済95万円の領収書
弁2書証:九州の熊本市内の被害者に対する謝罪文

続いて弁護側申請の証人訊問に入ります。


 証人訊問 

弁護側情状証人として、被告人の実父(60代後半)が出廷しました。

弁護人
証人の現状は?
証 人
会社勤めを9年前に退職し、現在個人の介護タクシーをしており、現在夫婦2人で生活しています。

弁護人
息子が逮捕されたと聞いてどう感じた?
証 人
びっくりしました。前回の件から更生してくれるだろうと思い安心していましたので。

弁護人
お父さんが九州の熊本市の被害者への被害弁済金95万円を支出したのはなぜか?
証 人
息子に罪の重さを感じさせるために息子自身に弁済させることも考えましたが、遅くなると被害者の方に申し訳ないとの思いから私が弁済金を出しました。

弁護人
逮捕されてから、被告人とは連絡していたか?
証 人
遠いので手紙のやりとりはしていました。
【証人がここでしばらく嗚咽】
息子の反省の思いは分かるが、息子には被害者の方や、我々家族、その他親戚など廻りの者達も大変辛い思いをしていることを分かってほしい。

弁護人
被告人は過去にも窃盗している。社会復帰後に再犯するのでは?
証 人
再犯しないと信じていますが、仕事に就かせます。本人も一人では無理ですので。

弁護人
証人のやっている介護タクシーを手伝わせようということか?
証 人
息子は一般の企業での就職は難しいので、自分は自営で融通もききますので介護タクシーの仕事で生活基盤を整えさせて、一生続けられるかは別にして、本人がその気になれば、資格もとらせて仕事を継がせることも考えています。

弁護人
社会復帰後の被告人の住居は?
証 人
私たち夫婦二人と一緒に住もうと考えています。これから妻や兄弟に同意を求めて決めたいと思っています。

検察官
被告人は過去に何回か裁判を受けているが、お父さんが証人に立ったのは?
証 人
1回です。それ以外は息子の兄が出廷しています。

検察官
前回の被害弁済は家族が立て替えたのか?
証 人
覚えていません。

検察官
今回の弁済金はどのように工面したのか?
証 人
私たち夫婦の老後の蓄えを取り崩しました。


 被告人質問 

弁護人
O市の事件、住居侵入の理由を最初は「のぞき目的」と言っていたが?
被告人
家の中をのぞいただけで、本当は「窃盗目的」で侵入しました。のぞきの趣味はありませんので。

弁護人
何故今回侵入の目的の供述を変えた。
被告人
こういう状況(九州の熊本市の事件も発覚した)になりましたので本当の理由を言っておこうと思いました。

弁護人
前に同種の犯罪で刑務所に行った。もうやめようとは思わなかったのか?
被告人
刑務所にいる時はそのように思っていたが、出所してM市の飲食店で働いていた時に、同僚の一人から自分が前科者であることを職場に広められ立場もなくなり、ヤケになってヤミカジノに手を出し金をつぎ込んでいました。これで金が必要になり窃盗を繰り返してしまいました。

弁護人
今後もヤミカジノ、ギャンブルを続けるのか?
被告人
前もヤミカジノに金をつぎ込みました。今後二度とやろうとは思いません。

弁護人
被害者への気持ちは?
被告人
侵入盗をやっているときは思考が麻痺していました。捕まって冷静に考えるとアホなことをしたと、被害者の方はもちろん家族を悲しませることをしたと思い、後悔しています。

弁護人
O市の事件の被害者からは示談を拒否されている。「もうこれ以上関わらんといてくれ。」と思われている。
被告人
被害者の方は恐怖だったと思います。申し訳ないと思っています。

弁護人
被告人の家族に対し迷惑を掛けたが?
被告人
どのようにしても償えないと思います。以前は自分が金持ちになって償うとか思いましたが、今は自分としてできることは、今後犯罪をしないことぐらいしかできないと思っています。

弁護人
社会復帰したらお父さんの仕事を手伝うのか。
被告人
実家に帰ったらこんな犯罪はしないだろうと思います。こんなことをやっているのは兄弟3人で僕だけです。せめてもの償いとして年老いた両親を見ていきたいと思います。

弁護人
今後再犯しないと言い切るのは?
被告人
実家に帰ってもし再犯したら、両親も実家にいることができなくなります。これが最後のチャンスだと思っています。

検察官
O市の事件を最初のぞき目的と言ったが、今回窃盗目的と供述を変えたのは?
被告人
のぞきの趣味はありませんので、のぞき目的ではありません。

検察官
侵入したときペンライトとドライバーを所持していた。ドライバーの目的は?
被告人
ドライバーは意味がありません。

検察官
被害者はのぞかれるだけでも怖い思いをしたということを分かっているのか?
被告人
分かっています。

検察官
被害者がケガをしていることを知っているか? 殴られたと言っているが?
被告人
知っています。被害者からタックルされましたので、それを振りほどくために腕を振り回したら被害者に当たりました。

検察官
被害者は、被告人から「100万円払うから見逃してくれ。」と言われたと言っているが?
被告人
それは言っていません。

検察官
ヤミカジノはどれぐらい儲かる?
被告人
良いときで100万円から200万円くらいです。

検察官
今回起訴された以外に何回ぐらい侵入盗をやった?
被告人
西の方でやりましたが、覚えていません。

検察官
前回の事件の被害弁済は誰がした。
被告人
自分が半額出しました。自分の家族には出してもらっていません。

検察官
今回の事件で被害弁済はお父さんがしてくれたことについてどう思う?
被告人
情けないし、申し訳ないです。

裁判長
先ほどお父さんが証言台で涙したことについてどう思う?
被告人
情けないし申し訳ないです。

裁判長
今回のお父さんの涙をどう活かしたい?
被告人
これを機に真面目に生きていきます。


 論告求刑 

論 告
O市の事件は、窃盗目的の住居侵入で酌量の余地はなく、追いすがる被害者に暴行を加えるなど態様は悪質である。
犯行を見つかりにくくするために黒い服を着ており、極めて常習性が高い
被害者の精神的・肉体的苦痛は大きい。

九州の熊本市の事件は、態様が悪質で、手慣れた職業的な犯行である。
起訴された事件以外にも潜在的な被害者も多数あり、連続しての犯行は規範意識が乏しいと言える。

求 刑
被告人に対し、懲役4年を求刑する。


 弁護人最終弁論 

起訴全件について公訴事実は争いません。
本人は反省しており、また熊本市の事件について被害弁済についても被告人の父親が95万円を弁済金として支払っています。
家族にも二度と犯罪は行わないと約束しています。
寛大な判決を切望します


 被告人最終陳述 

もう二度と犯罪はしないと誓います。被害者の方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
今回が最後だと思うのでしっかり反省したいと思います。


 裁判の向う側 

被告人は、大阪から新幹線で向い、現地ではラブホテルに泊まり、タクシーで犯行場所付近まで移動するという、まるでビジネスマンが出張するような感覚で窃盗を繰り返していました。窃盗で得た金額は恐らく200万円近くにのぼるのではと思います。しかも金の使い道はヤミカジノや風俗や飲食という実に唾棄すべき内容です。

犯行態様も目立たない黒い服を着てペンライトを持つなど、マンガのルパン三世のように手慣れていて、検察官の言うように職業的です。

職人のように手慣れて、職業的に盗みをできる被告人が、社会復帰後に再犯せずにいられるのでしょうか。更生への家族の監督は相当きびしいものが必要でしょう。

被告人は証人として法廷に出廷した父親の涙を見て、自身も被告人席で涙していましたが、これが本当の涙であってほしいと望みます。

社会復帰後はお父さんのやっている介護タクシーを手伝わせるということですが、お父さんには被告人にしっかりとお金のありがたさや、まっとうに働くことの大切さを教えてやってほしいものだと思います。

0 件のコメント: