2020年7月12日日曜日

【裁判傍聴記】無免許でも仕事の道具を運ぶのに車が要りますし、昼の弁当食べるのにも車がほしいので・・・

被告人は、未だかつて車の運転免許を取ったことがありません。車の運転は他人が運転するのを見て、みようみまねで覚えました。とある日の朝、被告人は自宅で酒を飲んだ後、車のオイル交換をしようと家を出て運転していました。途中でパチンコをしようと思いたち、進路を変えたとたんに民家の壁に衝突しました。被告人はその場から逃げてコンビニに入りましたが、駐車場でまたも他人の車に衝突させ、被害者の通報で駆け付けた警察官に、「酒気帯び運転」「無免許運転」の容疑で現行犯逮捕されました。

運転免許証 - Wikipedia
資料画像(by Wikipedia)

罪 状 道路交通法違反(酒気帯び運転・無免許運転)
被告人 60代前半男性
求 刑 懲役10月

被告人は、生まれてこのかた車の運転免許を取得したことがありません。にも拘らずこれまで無免許で車を運転してきました。建設会社で土木作業員をしていますので、時には仕事でダンプの運転をしたこともあるそうです。車を初めて購入したのは30年前で、6年前には無免許運転で罰金刑を受けましたが、5年前には再度車を購入して、毎日のマイカー通勤に使用していました。車の任意保険は未加入でした。

昨今は企業のコンプライアンス遵守の取り組みが徹底しており、特に公共工事などでは、現場で作業に従事する者は末端の作業員に至るまで、必要な資格の確認をして、不所持の作業員は現場には入れないという徹底をしていると思います。これまで被告人が無免許のまま、働いてこれたということは、勤めている建設会社がいかにずさんな管理なのか、あるいは知っていて目をつむっているのか、またはそんなことなんとも考えていないのか。被告人が平成26年に無免許運転で罰金刑を受けてからも、同じ会社で働いているということは、その建設会社は無免許運転などなんとも考えていないということなのでしょう。工事現場にたとえ孫請けであってもこういう企業が入るということは、反社会勢力を受け入れていることに等しいと思います。施主側や一次請の企業は十分留意していただきたいと思います。


事件の概要

令和2年3月〇日午前中、被告人は朝から自宅で酒を飲んだ後、毎日乗っている軽自動車のオイル交換をしようと車を運転して家を出ました。途中でパチンコをしようと思いたち、進路を変えましたが、変えたとたんに民家の壁に車を衝突させてしまいました。

被告人は「無免許やし、酒も飲んでいるし。」ということで、あわててその場から走り去りました。そして少し走ってから車を停めて、車の壊れたフロントバンパーをガムテープで応急修理しました。

その後、しばらく運転して正午少し前、コンビニを見つけましたので、駐車場に車を入れましたが、またもや駐車していた他の車に衝突しました。衝突した車には運転手が乗っており、運転手は車から降りてきて被告人に声をかけました。

相手の運転手はこのとき、被告人の吐く息が酒臭いことに気付きました。このため運転手はすぐさま110番通報しました。被告人は「無免許やし無保険やし、警察は勘弁してほしい。警察に言うんやった逃げるで。」と言いましたが、逃げることはできませんでした。

被告人は、駆け付けた警察官に呼気検査をされ、呼気中から0.31mg/lのアルコールが検出され、※1「酒気帯び運転」※2「無免許運転」「道路交通法違反」の容疑で現行犯逮捕されました。

※1「酒気帯び運転」は、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上検出された状態を言います。アルコール濃度に問わず、真っ直ぐに歩けないや受け答えがまともにできないなど客観的に酔っている状態の場合は「酒酔い運転」とみなされます。「酒気帯び運転」は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、「酒酔い運転」は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。この場合の罰金は刑事罰ですので、前科が付きます。行政処分と一緒に考える人がいますが、全く違いますので軽く考えないでください。

行政処分としては、「酒気帯び運転」では、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上0.25mg未満の場合は免許停止90日+違反点数13点、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.25mg以上の場合は免許取消(欠格期間2年~)+違反点数25点、「酒酔い運転」は、免許取消(欠格期間3年~)+違反点数35点が課されます。

※2「無免許運転」は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、行政処分としては、免許取消(欠格期間2年~)+違反点数25点が課されます。

被告人は九州のQ県で生まれ、中学を卒業後は漁業や建設業に従事していました。離婚歴がありますが、現在は離婚した妻と成人している子供2人と再度同居して、内縁関係となっています。

前科が1犯あり、平成26年に無免許運転で起訴され、罰金20万円の判決を受けていますが、現在も無免許状態であったということです。

被告人の内縁の妻は、被告人の酒癖が悪かったことから10年以上前に離婚しましたが、4~5年前に息子にすすめられて同居することとなりました。内縁の妻は、結婚していた時期も含め、被告人が無免許であるということを認識していました。

被告人は、今まで一度も運転免許を取得したことがないのに、30年以上車を所有して無免許運転を続けていました。また仕事上ダンプの運転もしていたということです。車の運転は他人が運転するのを見て、みようみまねで覚えたということです。

被告人はまた、6年前頃から仕事帰りに酒を飲んで、飲酒運転を繰り返していました。



罪状認否

被告人 間違いありません。

弁護人 被告人と同意見です。


弁護側の情状証人として、被告人の内縁の妻の証人訊問が申請されました。

証人訊問

弁護人
証人は被告人が無免許ということを知っていましたか。
証 人
知っていました。

弁護人
被告人が運転する車に子供を乗せたことはありますか。
証 人
一度もありません。

弁護人
前回、無免許運転で罰金刑を受けてから後は被告人は車を運転していましたか。
証 人
しばらくはやめていました。会社への通勤は、行きは会社の方が迎えに来てくれて、帰りは私が迎えに行っていました。

弁護人
被告人は平成27年に車を購入していますね。
証 人
私に黙って買いましたので、その時私は怒りバクハツでした。言い合いしましたが、結局目をつぶりました。くれぐれも気を付けるようにと、日々注意していました。

弁護人
たびたび飲酒運転をしていることも知っていましたか。
証 人
知りませんでした。「飲んでへんやろなあ。」と言って確認していました。
・・・知っていたとなると法的な責任はともかく、道義的な責任は免れないでしょう。

弁護人
何故止められなかったのですか。
証 人
働いてもらわないと生活できなかったので、止められませんでした。不安はありましたので、とりあえず心配していました。今回捕まってよかったと思っています。

弁護人
保釈されてからどうしていますか。
証 人
今は会社の方に送り迎えしてもらっています。

弁護人
飲酒はどうですか。
証 人
以前は飲みだしたら止まらないほど、浴びるように飲んでいましたが、今は家に帰ってから2~3杯程度で止めています。反省しています。

弁護人
被告人の指導監督のためどうしますか。
証 人
車には乗せません。以前乗っていた車は処分しましたし、私の車のキーは主人の目に見えないところに保管しています。

検察官
前回の無免許運転の罰金は誰が払いましたか。
証 人
主人が払いました。

検察官
被告人が無免許であることを知っていましたか。
証 人
知っていました。注意していましたが止められませんでした。

検察官
先ほど弁護人の質問で、被告人は現在家に帰ってからしか酒を飲んでいないということでしたが、仕事帰りに酒を飲んでいないとどうして言えますか。
証 人
帰ってから酒の臭いもしませんし、仕事先の現場から直帰しています。目付きも違います。
・・・ということは、以前は酒の臭いがしていたのでしょうね・・・


被告人質問

弁護人
平成26年に罰金20万円払った時の反省は活かされなかったのですか。
被告人
今までやったことは反省しています。

弁護人
前回のことから、無免許が見つかることは考えていなかったのですか。
被告人
仕事関係もあるし、生活のためにやむを得ませんでした。

弁護人
今回逮捕されたときどう思いましたか。
被告人
「もうこれで終わりかなと思い、ホッとしました。これで無免許で乗ることはないなと思いました。」

弁護人
平成27年に軽自動車を購入したのは何故ですか。
被告人
仕事で使う道具を持ち運ぶために必要でした。現場で汚れた道具を妻の車には乗せられませんでした。

弁護人
免許を取ることは考えなかったのですか。
被告人
仕事を休んでまで自動車学校に行こうとは思いませんでした。

弁護人
飲酒運転はいつごろからですか。
被告人
6年くらい前からです。

弁護人
飲酒運転が大変危険な行為だという自覚はありましたか。
被告人
自覚はありましたが運転していました。簡単に物事を考えていたかも知れん。

弁護人
家族からの注意はどうとらえていましたか。
被告人
「また言うてる。頭悪いな。」としか思っていませんでした。

弁護人
今後は仕事はどうするつもりですか。
被告人
今後も同じ会社で働くつもりです。

弁護人
コンビニでの事故の物損の支払いはどうなっていますか。
被告人
修理費20万円の見積もりで、毎月5万円支払えと言われましたが、月1万円しか払えないと相手の保険会社に答えて以降、相手方から連絡がありません。

弁護人
損害賠償の書面は交わしていますか。
被告人
交わしていません。

弁護人
今後車の免許取得や車の購入は考えていますか。
被告人
免許も取りませんし、車も買いません。今回の事件で反省しかないです。二度としません。

検察官
今後酒を止めることは考えていますか。
被告人
今は考えていません。

裁判長
車を運転する必要があるというのは何故ですか。
被告人
道具を運ぶことと、昼飯時に現場で弁当を食べるのに自分の車が必要でした。

裁判長
無免許運転まして飲酒運転はどうあっても正当化されません。あなたの主張を聞いていると、安易に過去の行為を正当化しようとしているようにしか聞こえない。過去の行動を正当化しないように。・・・厳しい口調で被告人を諭しました。


論告求刑

論 告
被告人は、自宅やコンビニの駐車場の車内で飲酒して、車の運転を繰り返しており、常習的で悪質である。規範意識が希薄であることから再犯の可能性がある。一般予防の見地からも被告人には矯正施設で更生させることが妥当と思料する。

求 刑
被告人に懲役10月を求刑する。


弁護人最終弁論

被告人は反省しています。車も処分して、今後仕事の送り迎えは会社の同僚が行うこととしています。今後の家族の監督のもと再犯の恐れはありません。従って被告人には執行猶予付きの判決を望みます。


被告人最終陳述

これからは車に乗ることはないです。


裁判の向う側

今まで裁判で聞いたことのある「無免許運転」は、免許を取り消されたのに車を運転していて「無免許」で検挙されたという事件ばかりでしたが、今回の事件は驚きです。生まれてこのかた、一度も免許を取ったことがないというのです。しかもそれで捕まったのは6年前の1度だけということです。よくぞ、捕まったり事故を起こしたりしなかったものです。(最近メディアに70歳の高齢男性が無免許で逮捕されたという記事が出ていましたがこれも免許取得歴無しということでした。)

警察の取り締まりにも限界があるということでしょうか。

被告人の内縁の妻も、被告人が無免許運転だということを知っていたというのも驚きです。生活のためということで正当化しようとしていましたが、そんなこと理由になりませんし、
もし被告人が運転する車に同乗していたとしたら、同罪です。

証人訊問や被告人質問で、被告人も内縁の妻も、自分たちの違法な行為を正当化することに終始していたように思います。生活のためや、あきれたことに昼の弁当を食べるために車が必要で無免許で運転した、仕事を休んでまで自動車学校に行こうとは思わなかったなど理由にもならないことを主張していました。

裁判長が最後に諭した無免許運転まして飲酒運転はどうあっても正当化されません。あなたの主張を聞いていると、安易に過去の行為を正当化しようとしているようにしか聞こえない。過去の行動を正当化しないように。ということを肝に銘じて、これから生きていってほしいと思います。

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