2019年7月23日火曜日

【裁判傍聴記】夫のDVのストレスから酒を飲んで運転してしまいました

被告人はあてもなく車を運転しながら、コンビニで買った缶酎ハイを飲みました。被告人は更に飲み足りなく別のコンビニに立ち寄り、缶酎ハイを買い足し、なおも飲みながら運転し、差し掛かった交差点で対向車両に正面衝突して、相手方運転手に頸椎捻挫の傷を負わせました。

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罪 状:道路交通法違反(酒気帯び運転、前方不注視)、過失運転致傷
被告人:40代後半 女性
求 刑:懲役10月


 事件の概要 

平成31年1月〇日午後8時頃、被告人は車を運転して信号のある交差点を直進すべく進行しましたが、交差点対向側の右折レーンに停止していた車に正面から衝突しました。被告人の車の事故直前のスピードは時速50~60kmでした。
衝突された相手方被害車両の運転手は咄嗟に急ブレーキをかけましたが、約8m後方へ押し戻されました。
この事故で被告人の車も相手方被害者の車も前部が破損し、エアバッグが開きました。
被告人は、前方の信号が青を確認したがこの時にエアコンを操作して脇見運転になったと供述しています。

相手方被害車両を運転していた40代の女性は、病院で診察の結果、頸椎捻挫で全治15日間でした。

事故の現場検証を行った警察官が被告人を検査した結果、被告人の呼気から0.37mg/lのアルコールが検知され、被告人は酒気帯び運転で現行犯逮捕されました。

事故当日被告人は、午後2時頃身を寄せていた実家を出て、あてもなくドライブに出かけました。途中コンビニに寄って缶酎ハイの氷結3本を買い、その内の2本を飲みながら運転していました。その後更にスーパーに立ち寄り缶酎ハイの9%を1本、500mlを2本、350mlを1本買いました。

午後6時30分頃、前を走る車に後ろから追突し双方のバンパーがへこみました。この時相手方被害者から殴られたとこの法廷で供述しています。

被告人は最初の事故の後もドライブを続け、運転しながら先ほどスーパーで買った缶酎ハイを飲みながら運転していました。被告人は事故直前までに缶酎ハイを6本飲んでいました。そして当該交差点に差し掛かり本件事故を起こしました。

被告人は、地元の高校を卒業後事務員をしていましたが、その後結婚・出産し事故当時はレストランでアルバイトをしていました。

被告人は、これまで家庭生活で夫から常に暴力を受けていたため、これを避けるために母親が一人で暮す実家に身を寄せ夫とは別居していました。しかし、家には子供もいるので夕方食事を準備するために家に帰り、夫が家に帰ってくるまでに実家に戻るという生活を続けていました。ところが、ある時点から夫から「いやがらせメール」が毎日大量に送り付けられるようになりました。

被告人は、夫から大量に送り付けられてくる「いやがらせメール」がストレスの原因となって酒を飲むようになりました。実家の中で飲むと母親が心配するため、実家の前に止めている自身の車の中で飲んでいました。

今回の事故をきっかけにして、被告人は夫と離婚することを決心しました。

なお、本件事故の相手方被害者は、警察の事情聴取に対して、「被告人を厳罰に処すよう希望している」と供述しています。


 罪状認否 

被告人:認めます。 弁護人:公訴事実については間違いありません。


 冒頭陳述・証拠申請・証拠調べ 

検察官が事件の概要に記載の起訴内容を陳述し、検察側の証拠調べを申請しました。

これに対して、弁護人が全て同意としたため、検察側の証拠調べが行われました。


 弁護側証拠申請・証拠調べ 

弁護人は情状証人訊問を申請し、検察官が同意したため証人訊問が行われました。


 証人訊問 

証人訊問には、実家から車で5分の場所に住む被告人の弟が出廷しました。

弁護人
被告人が母親と同居しているのは?
証 人
母は足が悪いので姉が面倒を見ています。

弁護人
被告人が拘留中は? そして保釈後は?
証 人
姉が拘留中は私が週に2回実家に帰り、母親の面倒を見ていました。姉が保釈後は、姉は酒を飲まずに母や子供の身の回りを見ながら生活しています。

弁護人
被告人は今回の事故の前から家の前で酒を飲んでいたが?
証 人
母が酒について注意したことについて、本人が抱えているストレスについて聞いてやれば
よかったと後悔しています。私は姉の酒が夫からのDVが原因だということは知っていました。DVはかわいそうだと思いますが、酒で他人に迷惑をかけるのはダメです。

弁護人
今後被告人が夫と離婚した場合、家族としてどう関わっていく?
証 人
姉の息子2人は成人しており理解していますので、息子達と母と私で姉の相談にのってサポートしていきます。私の妻も相談にのると言ってくれています。

弁護人
相手方への弁済は?
証 人
保険は対人対物ともに無制限です。物損については弁済は終わっています。人身は相手方の弁護士も入りこれから示談交渉に入ります。

弁護人
相手方への謝罪は?
証 人
私が謝罪に行きました。相方から事故の詳細を聞き、「本人から謝罪してくれ」と言われましたので私も同行して姉が謝罪に行きました。

弁護人
今後は?
証 人
姉の息子と一緒に姉の話ょよく聞いてサポートしていきます。

検察官
飲酒運転の理由を本人から聞いてどうした?
証 人
姉は夫からのDVでのストレスで酒を飲んだと言いましたが、ストレスで酒を飲んで運転するなどもってのほかということは、姉の息子も含め全員が言いました。

検察官
行政処分は? その間被告人に運転させないためにどうする? 
証 人
免許取り消し2年間です。その間は車の鍵は姉の目が届かないところに隠します。

検察官
免許取り消し2年後に被告人に再度免許を取らせるのか?
証 人
母が70歳を超えているので生活に車がいります。ですので、2年後に再度皆で相談します。

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 被告人質問 

弁護人
保釈後、被害者の方に謝罪に行ったのか?
被告人
行きました。ケガで辛い思いをさせて申し訳ないと謝罪しました。被害者の方は「飲酒運転は絶対許せない。一生忘れず生きていってください」と言われました。

弁護人
二度と飲酒運転はしない? 保釈後酒は?
被告人
二度と飲酒運転はしません。保釈後は酒は飲んでいませんし、飲みたくありません。

弁護人
夫から大量のメールが来て酒を飲むようになったのなら、酒を飲めないことがストレスにならないか?
被告人
元々酒は飲めませんでしたので、ストレスになりません。

弁護人
事故前から別居して食事だけ準備していたが、保釈後の夫との関わりは?
被告人
食事は準備していません。息子達がやっています。

弁護人
生活費のことは?
被告人
以前は話できていませんでしたが、今は弟や母と話が出来ています。病院にも通院して睡眠薬をもらって安心感があります。酒を飲まなくでも眠れます。

弁護人
夫との離婚の話は?
被告人
しています。

弁護人
免許取り消し2年後は?
被告人
今は全く考えていませんが、母の様子を見て家族と相談して決めます。

弁護人
前勤めていたレストランは辞めたのか? 今後の生活は?
被告人
レストランは通勤に時間がかかるので辞めました。ハローワークに行って3月末に就職しようと思っています。今貯金が30万円ありますので、当面は生活できます。

弁護人
飲酒運転については?
被告人
申し訳ない気持ちでいっぱいです。

検察官
今回の件、いつ酒を飲もうと思った?
被告人
酒を買って家で飲もうと思っていましたが、ストレスで飲みたくなりました。

検察官
本件事故の前に事故を起こしているが?
被告人
前の事故の時は、酒もありましたが頭が真っ白になって考えられなくなり、家に帰ろうと思いましたが、今どこにいるのか分からなくなりました。

検察官
エアコン操作で脇見運転したと言っているが、酒のせいではないか?
被告人
そうかも知れません。

裁判長
元々どこに行こうと思っていたのか?
被告人
あてもなくドライブしようと思っていました。

裁判長
コンビニとスーパーで酒を買ったのは?
被告人
家で飲もうと思っていました。

裁判長
廻りに見られているのではと考えた?
被告人
人目のないところで飲みました。

裁判
今後は飲まない、運転しない。
被告人
そうします。


 論告求刑 

論 告
被告人は、ドライブ途中に缶酎ハイを6本飲んで事故を起こしており、安易かつ大胆な態様である。飲酒運転の危険性が事故を惹起することは明白であり、被告人の過失は重大である。

求 刑
被告人に懲役10月を求刑する。


 弁護人最終弁論 

公訴事実は争わない。
情状は、エアコンを操作しての前方不注視であり、更にゆるいカーブでことさら右にハンドルを切っていない。
物損については相手方と示談が成立。また、人身についても示談が成立する見込み。
免許を取り消され、職場も退職して一定の社会的制裁を受けている。
今後家族の支援が得られることから再犯の可能性は低い。
真摯に反省している。
夫との離婚でストレスの原因も無くなるため、再犯の可能性はない。
よって、執行猶予付きの判決をお願いする。
なお、訴訟費用についても被告人に負担させないでいただきたい。


 被告人最終陳述 

申し訳ございません。
二度と飲酒運転をいたしません。


 裁判の向う側 

今回の事件で理由はどうであれ、飲酒運転は絶対に許すことはできません。しかも車を運転しながら酒を飲むなど言語道断です。被告人はしっかりと反省して二度と飲酒運転しないでいただきたい。

飲酒運転が原因で相手方被害者にもケガをさせたということは、心の重荷として今後生活していくことになるのでしょう。

しかし、夫婦間のDVというのは現実にあるのですね。被告人が逃げるくらいですから相当ひどかったのでしょう。夫からの「いやがらせメール」もドラマのネタのようですね。
どんな「いやがらせメール」だったのか聞いてみたかったものです。
被告人は、もっと早くにストレス源の夫と離婚するという選択肢を何故とらなかったのでしょうか。これも疑問です。今回離婚によっていろんなことが清算されることになることを祈ります。

話は変わりますが、今回の被告人は法廷でも飲酒運転を真摯に反省していましたが、先日の別の法廷で、飲酒運転で事故を起こした被告人の情状証人に立った父親と姉の証言を聞いて、びっくりしました。
被告人と事故直前に食事を一緒にして、被告人がビールを飲んだことをあっけらかんと証言したうえで、警察のアルコール検査の数字がおかしいと言うのです。父親にいたってはそのことで検察官に食って掛かっていました。検知されたアルコールの数字はどうであれ、被告人が酒を飲んで車を運転したのは紛れもない事実なので、まず被告人が犯罪行為を犯したことについてどう思うのが先に来るべきです。父親は警察からの任意の事情聴取の要請も無視したと証言しました。

まだまだ社会の飲酒運転に対する認識が低い、という現状を再認識しました。

警察の啓発活動や、免許取得や更新時の教育方法を考えるべきではないですか。

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