2019年5月22日水曜日

【裁判傍聴記】被告人の責任能力に問題なしと考えるのは問題

被告人はA市のスーパーでウナギの蒲焼、パック寿司の計2500円相当を店の買い物かごに入れ、店内の人気のない通路で手提げ袋に入れ替えているところを保安員に見つかり、万引きの現行犯で逮捕され、警察に引き渡されました。

以前の投稿の常習累犯窃盗(万引き)の事件では、「窃盗犯(クレプトマニア)」について書きましたが、今回の事件で弁護人は被告人の知的傷害の面に焦点を当てていました。

弁護人は常習的に万引きを犯す被告人の責任能力の判定と、常習累犯窃盗犯が繰り返し犯行を犯し裁判のたびに量刑が重くなっていくことについて、抜本的な解決を目指す意味から一石を投じたいと主張していました。



罪 状 常習累犯窃盗(万引き)
被告人 60代後半 男性

 事件の概要 

平成30年×月〇日、被告人はA市のスーパーでウナギの蒲焼、パック寿司の計2500円相当を店の買い物かごに入れ、店内の人気のない通路で手提げ袋に入れ替えているところを保安員に見つけられていました。被告人が店を出たところで、保安員に呼び止められ手提げ袋から万引きした商品が出てきたことから、万引きの現行犯で逮捕され、警察に引き渡されました。

被告人は中学校を卒業後、地元で農業をしていましたが現在は無職です。

被告人は、前科が7件あり、うち2件は常習累犯窃盗です。過去3回刑務所に服役しています。


 罪状認否確認 

被告人 
起訴状どおり認めます。

弁護人
被告人の判断能力に問題があると考えます。心神耗弱を主張します。


 検察官冒頭陳述 

証拠調べに入る前に、検察官が「事件の概要」記載の公訴事実を陳述し、証拠調べを申請しました。

弁護人は検察官が申請した証拠について全て同意すると陳述しました。


 検察官側証拠調べ 

スーパー店長の証言
以前から不審な行動をするのでマークしていました。厳正に処罰してください。

スーパーの防犯カメラの映像
保安員が被告人に万引きを確認すると、被告人が「うん」とうなづく様子が映っていました。

被害弁済済
被告人は姉からお金を借りて被害弁済しました。

被告人の警察での供述調書
犯行当日はスーパーに涼みに行くつもりでした。当日手元には50円所持していました。
自宅の冷蔵庫には食べ物はありました。

前科
昭和60年頃から万引きを始め、平成19年にはスーパーで万引きをして懲役刑をうけている。


 弁護人証拠申請 

弁護人は被告人の「精神鑑定」を請求しました。

弁護人の鑑定請求の理由
・被告人は、小学6年生の時バイクに衝突され転倒して後頭部を打って、その後後遺障害に悩まされている。

・被告人は、犯行を繰り返している。
昭和60年に自転車窃盗で逮捕
平成2年に万引きで逮捕 懲役9月 執行猶予
平成15年に万引きで逮捕 懲役10月実刑
平成16年に万引きで逮捕 懲役1年実刑
平成19年に万引きで逮捕 懲役1年実刑
平成23年に万引きで逮捕 常習累犯窃盗で懲役1年10月実刑
平成29年に万引きで逮捕 常習累犯窃盗で懲役2年4月実刑

常習累犯窃盗を犯す者は知的障害者が多い。裁判で実刑を受けても、繰り返しをやめることなく同種の犯罪を犯し、裁判のたびに重罪になっていく。

・被告人は、前刑の出所後に地元の社会福祉協議会に金銭の管理を依頼したものの断られている。

・被告人が善悪の判断ができていたのか疑問である。

被告人の責任能力に問題なしと考えるのは問題である。責任能力に問題なしとしたままで、反省していないとして重罰を課していくのは問題である。

・元民主党の元衆議院議員の山本譲司はその著書の中で、自身の刑務所服役体験を通して
知的障害者の刑務所内での悲惨な状況や、繰り返し犯罪を犯し繰り返し刑務所に戻ってくる様を見て、知的障害者が犯罪を犯すと刑務所しか生きる場のなくなる様子を描いている。
裁判所は、法律の運用にあたって、繰り返し重罰を課すだけでなく、知的障害者の更生について考えていただきたい。


 被告人質問 

弁護人
バイクの事故は小学生の頃か?
被告人
いつか分かりません。バイクに当たられて後頭部を打ちました。

弁護人
その時の事故の後遺症はどういうものか?
被告人
首のまわりが痛くなります。

弁護人
障害者手帳は持っているか?
被告人
ありません。

弁護人
事故後の通院はいつ頃まで?
被告人
大きくなってからもちょいちょい見てもらいました。MRI検査も受けました。

弁護人
検査結果は?
被告人
大したことはないと言われました。

弁護人
足はどうしたの?
被告人
去年の暮れにこけてケガしました。

弁護人
生活費はどうしているの?
被告人
生活保護で家賃3万5千円と生活費4万円ちょっとです。裁判所へ来る交通費も厳しいです。

弁護人
何回も裁判を受けたのは覚えているか?
被告人
はい。

弁護人
計画的にお金を使うことはできないの?
被告人
冬は暖房に電気代とか金がかかります。

弁護人
お金の管理を社会福祉協議会に頼んだのか?
被告人
頼みました。ことわられました。

弁護人
事件を繰り返すとき、刑務所に行くことは考えなかったのか?
被告人
考えるけど、食いたいなあということと半々ぐらいに考える。したらあかんとは思っていました。

弁護人
事件の後、後悔は?
被告人
後悔しています。

検察官
バイク事故の件で病院の診察は受けているのか?
被告人
年をとると後頭部と首筋の痛いのが治りにくくなる。

検察官
年金はもらっているのか?
被告人
月に2万円ほどで、年金を入れて月の生活費は4万円ほどです。

検察官
お金の管理を社会福祉協議会に頼んだのか?
被告人
社会福祉協議会の担当が変わってからは未だ行っていません。担当が変わってから今の担当がうるさいので行っていません。

検察官
前刑の出所後から今回の件までは万引きはしていないのか?
被告人
やっていません。

検察官
今回の犯行のとき何で品物を手提げ袋に入れ替えたのか?
被告人
見つかったらかなんからです。

裁判長
犯行の時、保安員から声をかけられてどう思った?
被告人
見つかったという感じです。

裁判長
バイク事故の検査はどこの病院で受けたのか?
被告人
近くの総合病院です。


 裁判手続きに関する協議 

裁判長
弁護人の精神鑑定請求に対する検察側の意見は?
検察官
2週間以内に回答します。


ということで、裁判は次回以降に持ち越しとなりました。


 裁判の向う側 

以前投稿した常習累犯窃盗(万引き)の事件では、弁護人は被告人の精神疾患として「窃盗症(クレプトマニア)」を主張しました。

今回の事件では、被告人が子供の頃に受けたバイク事故からの後頭部の後遺症による知的障害を主張しました。

弁護側が精神鑑定の申請をした状態ですので、今後検察官が不同意として、裁判所も申請を却下した場合は、このまま常習累犯窃盗として判決されることでしょう。

しかし、知的障害者が常習累犯窃盗を犯しやすく、繰り返すごとに量刑が重くなっていくという現実は変わらなのかも知れません。

確かに犯罪という事実は事実ですが、法律の手続きだけで裁判を進めることが、犯罪の減少や被告人の更生を図ることができるのか疑問です。

最近社会的に問題になっている児童虐待の問題も、事象が顕在化して初めてマスコミも動き、行政も動くということになっていますが、今回の件も後手後手にまわることのないようお願いしたいものです。

この事件の公判はまだ続きます。

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