2019年5月21日火曜日

【裁判傍聴記】病気さえ治してくれれば悪いことはしません

被告人は■市内の路上で、女性の背後から抱きつき胸をもみました。被害者は17才の女子高校生でした。
被告人は、被害者の悲鳴を聞いて駆け付けた男性に取り押さえられ、通報を受けて駆け付けた警察官に現行犯逮捕されました。



罪 状 強制わいせつ罪
被告人 50代前半 男性
求 刑 懲役2年 


 事件の概要 

平成30年6月×日、被告人は■市内の路上で、女性の背後から抱きつき胸をもみました。
被害者は17才の女子高校生でした。

被告人は、被害者の悲鳴を聞いて駆け付けた男性に取り押さえられ、通報を受けて駆け付けた警察官に現行犯逮捕されました。

被告人は、当日賽銭泥棒をしようと、目当ての神社を目指して自宅を自転車で出ました。目当ての神社は祭礼で参拝客が多かったので、諦めて自宅に戻るべく自転車で走っていたところ、前方に被害女性が歩いているのを発見し、自転車を降りて後方から近づき、犯行に及んだものです。

被告人は、高校を中退して以降は無職で、父親から扶養されていました。

平成13年と平成16年に「県迷惑防止条例違反」で罰金刑を受け、平成29年には今回と同様に女性の背後から抱きついて胸をもんだとして、「強制わいせつ罪」に問われ、懲役2年執行猶予4年の判決を受けています。

検察側は証拠調べの中で、被告人が通院している精神疾患専門病院の医師の証言を証拠として採用し、「被告人には統合失調症と軽度知的能力傷害の症状があり治療中であるが、責任能力はある」との見解を示しました。

(説 明)
統合失調症とは、何らかの原因でさまざまな情報や刺激に過敏になりすぎ、脳が対応できなくて、精神機能のネットワークがうまく働かなくなり、感情や思考がまとめられなくなる症状をいいます。症状によっては、幻聴や幻覚が現れたり、被害妄想が出たりとさまざまな症状が出現します。(引用:統合失調症ナビ)
責任能力とは、物事の是非・善悪を判断して、なおかつそれに従って行動できる能力をいいます。(引用:wikipedia)


 弁護側証人尋問 

弁護側の情状証人として、70~80才代と思われる被告人の父親が証言しました。

弁護人
あなたと被告人はどのように生活していますか。
証 人
自分は■市内に長女と孫と同居して生活しており、被告人は道路を隔てた家で一人で住んでいます。被告人が住んでいる家も自分の所有です。被告人には自分が、朝昼晩の三度の食事を運んでやっています。

弁護人
被告人の収入はどうなっていますか。
証 人
自分が与える小遣いだけです。

弁護人
被告人の「統合失調症」の症状はどうですか。
証 人
平成14年に発症して、16年間通院治療しています。
家の中で大声でうなったり、柱を叩いたり、石を投げたりですので家の中はすさまじい状況になっています。
この症状ですので、被告人が外出中は心配で心配で仕方ありません。
毎日食事を渡すたびに注意していますが、話を聞いてくれているのか。

検察官
心配なら同居することは考えなかったのですか。
証 人
一緒に暮らせるような状態ではありません。
閉じ込めて外に出ないように出来るものなら、そうしたいとも思います。


 被告人質問 

弁護人
あなたは過去にも同様の犯罪を犯していますが、普段どのように心がけていましたか。
被告人
他人に迷惑をかけないようにしていました。

弁護人
ではなぜ今回犯行に及んだのですか。
被告人
やれという幻聴が聞こえたのでやりました。

弁護人
あなたは、統合失調症の薬をもらって飲んでいたのではないですか。
被告人
その日は薬を飲んでいませんでした。

弁護人
犯行当日は、なぜ薬を飲んでいなかったのですか。
被告人
胃潰瘍が出たため飲んでいませんでした。

弁護人
証人の証言では、あなたは傷害年金受給資格があるのに、何故受給していないのですか。
被告人
保険料を1回納めなかったからです。

弁護人
生活保護の受給申請はしましたか。
被告人
2年前に申請しましたが、扶養してくれる親がいるからダメと言われました。

弁護人
今後どうすればこのような犯罪をしないようにできると思いますか。
被告人
病気さえ治してくれれば、悪いことはしません。

検察官
あなたは弁護人の質問に幻聴のせいと証言しましたが、何が原因ですか。
被告人
病気のせいです。


 論告求刑 

論 告
犯行は卑劣で悪質である。
統合失調症の治療中

求 刑
懲役2年


 弁護人最終弁論 

犯行態様の「背後から抱きつき」は悪質性が高いとは言えない。
寛大な判決をお願いします。


 被告人最終陳述 

二度としません。


 裁判の向う側 

本件で被害にあった、17才の女子高生の恐怖と嫌悪はいかばかりかと察して余りあります。事件後もフラッシュバックに悩まされるだろうなとも思います。この種の犯罪の被害者の多くが若い女性です。被害者の今後の人生に影を落とさないよう案じるばかりです。

法廷で証言に立った被告人の父親は「閉じ込めて外に出ないように出来るものなら、そうしたいとも思います。」と証言しました。先般、兵庫県三田市で我が息子を長期間自宅の小屋に監禁していた事件がありましたが、あの事件の父親になぞらえた証言だっと思います。

被告人は、今回の犯行は自身が抱える統合失調症が原因と主張しましたが、それが全てではないのは明白です。精神科の医師も被告人には責任能力はあるとの見解です。

しかし、それにしても被告人やその家族が統合失調症の症状で悩んでいたのは間違いなく、性犯罪ならずとも、今回のように犯罪被害者を出す前に、行政や医療機関が対応できる道はないのでしょうか。

今回の被告人の証言で全てを語っていたのか分かりませんが、傷害年金の打ち切りや、生活保護の不支給などは行政として、もう少し対応できることはなかったのかと感じます。

被告人の父親の悲痛な訴えが耳に残ります。

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