2019年5月20日月曜日

【裁判傍聴記】被告人は不慣れな仕事で悩んでいたんです

■市発注の認定こども園工事の電気設備工事の一般競争入札をめぐって、当時■市幹部の立場にあった被告人Aは、▲町の電気設備工事会社社長の被告人Bに失格基準価格を漏らした見返りに旅行券10万円分を受け取りました。被告人Aと被告人Bは、その後も同種の電気設備工事の一般競争入札に際し、5回に亘って同様に入札関係情報を漏らしていました。この間にA被告はB被告から、合計30万円の現金を受け取っていました。

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資料画像(by Pixabay)

罪 状
A被告 加重収賄罪他
B被告 贈賄罪他

被告人 
A被告 60代前半 男性
B被告 50代前半 男性

求 刑
A被告 懲役3年 追徴金40万円
B懲役 懲役2年

判 決
A被告 懲役3年 執行猶予5年 追徴金40代万円
B被告 懲役2年 執行猶予5年


 事件の概要 

平成30年4月から5月にかけて、被告人Aと被告人Bは、以下の事件の被告人として逮捕されました。

平成25年の■市発注の認定こども園工事の電気設備工事の一般競争入札をめぐって、当時■市幹部の立場にあった被告人Aは、▲町の電気設備工事会社社長の被告人Bに失格基準価格を漏らした見返りに旅行券10万円分を受け取りました。

被告人Aと被告人Bは、その後も同種の電気設備工事の一般競争入札に際し、5回に亘って同様に入札関係情報を漏らしていました。この間にA被告はB被告から、合計30万円の現金を受け取っていました。

被告人Aは、平成の大合併前は◆町の幹部で、大合併後の■市でも市役所の幹部職員でした。被告人Aは平成30年3月末をもって■市を定年退職しましたが、引き続き■市に再雇用されて勤務していました。

被告人Bは、平成16年頃被告人の自宅の電気設備工事を請け負い、その後被告人Aは認定こども園の工事の際に、被告人Bの依頼を受けて、当時園の設計を担当していた部下から設計書を入手し、被告人Bに漏らしたものです。

被告人A 加重収賄罪他
被告人B 贈賄罪他

[用語の説明]

認定こども園
平成18年に創設された施設形態で、幼稚園と保育園の両方の機能を併せ持つ施設。

加重収賄罪
公務員が収賄行為に加えて、公務員の職務に違反する不正行為が行われた場合に、重い刑事罰を科すものです。

贈賄罪
公務員に対して、その担当する職務に関連して、不正な賄賂を供与することによって成立する犯罪で、収賄罪より刑が軽い。

官製談合防止法
国や地方公共団体等が発注する工事の競争入札に際して、公務員による不正を処罰する法律です。処罰の対象は基本的に公務員です。

公契約関係競争入札妨害
国や地方公共団体等が発注する工事の競争入札に際して、入札に参加した業者が何らかの行為で正当な競争入札を妨害した場合、その業者を処罰するものです。

失格基準価格 
国や地方公共団体等が発注する工事の競争入札に際して、入札に参加した業者が基準価格より極端に低い価格で入札した場合は、低価格入札として価格審査委員会で当該価格の妥当性を審査する場合もあるが、国や地方公共団体によっては入札時に失格基準価格を設定して、その価格を下回る価格で入札した場合は自動的に失格とする仕組みです。


 弁護側証人尋問 

[被告人Aの妻]

弁護人
被告人は日頃、自らの職務について、どのように言っていましたか。
証 人 
自分は■市の市民の皆さんのために働いていると口癖のように言っていました。

弁護人 
あなたから見て、被告人の勤務態度はどうでしたか。
証 人 
◆町に勤務していた時も、■市になってからも、毎朝7時には家を出て真面目に誠実に勤めていました。常に市民の皆さんの為を思って勤務していたと思います。

検察官 
B被告があなたのお宅を訪れて、10万円の旅行券を置いていったことを覚えていますか。
証 人 
記憶にありません。

検察官 
10万円の旅行券で旅行に行きましたか。
証 人 
行っていません。

検察官 
平成16年頃、あなたのご自宅の電気設備の工事をB被告人の会社が施工していたのですが、その費用の支払いはどうしましたか。
証 人 
主人が対応していましたので、知りません。

検察官 
被告人Bが肩代わりしていたのではありませんか。
証 人 
分かりません。


[被告人Bの妻]

弁護人 
被告人が起訴されて、会社はどうなりましたか。
証 人 
電気通信関係の工事が公共関係工事から指名停止となりました。その他の関係工事も同様に指名停止になるのかと思います。

弁護人 
被告人が起訴されて、会社の経営はどうなっていますか。
証 人 
主人は、経営権を外して、私が代表になっています。

弁護人 
今後会社をどのようにしていこうと考えていますか。
証 人 
従業員もいますし、ひいきにしていただいているお客様もおられるので、私が経営を引き継いで、事業を続けたいと考えています。主人は営業関係の仕事はさせずに、若手への技術指導をしてもらおうと思っています。

会社として、今後このようなことを起さないよう、弁護士の先生に入っていただいて、コンプライアンスの構築とチェックを行っていただこうと考えています。この活動は継続的な取り組みとして、社内教育や社内チェック体制の確立に向けて取り組んでまいります。

現在は、私を中心にこれまでごひいきにしていただいているお客様に、今回の件のお詫びと、今後の対応について、ご説明にお伺いしているところです。 

検察官
被告人がいずれまた客先に出ていくのではないですか。
証 人
それはありません。主人もしっかりと認識していますし、第三者として弁護士の先生もついていただいていますので、それはできません。

 
 被告人質問 

[被告人A]

弁護人 
あなたは、今回の起訴を受けてどのように考えていますか。
被告人
■市の市民の皆様や、市役所の関係各位に多大な迷惑をお掛けしていることに対し、大変申し訳なく思っております。

弁護人
事件当時のあなたの職務はどのようなものでしたか。
被告人
当時子育て政策に関し、市議会と市長の間の板挟みとなり、日々双方の意見調整に明け暮れておりました。その間にも市の幹部として不慣れな一般業務も当然のこととして対応していましたので、激務といえば激務でした。

弁護人
その中で、今回の電気設備工事の入札については、どのように考えていましたか。
被告人
少しでも円滑に工事を進めたい、という気持ちが強かったと思います。

弁護人
あなたは、今回の逮捕で退職と退職金の扱いはどうなりましたか。
被告人
在職中のことということで定年退職は懲戒免職に切り替えられましたので、退職金は支給されませんでした。また■市の再雇用も解雇されました。

[被告人B]

弁護人
今後あなたは会社の中でどのような立場になりますか。
被告人
会社の経営や営業関係にはタッチすることなく、若手への技術指導に取り組んでいきます。


 論告求刑 

検察官
以前から付き合いのあったB被告の会社に受注させようと、繰り返し入札情報を漏らし、公務の信頼を損ねて悪質な行為である。

求 刑
A被告 懲役3年
B被告 懲役2年


 弁護人最終弁論 

[A被告弁護人]
事件当時被告人は、子育て政策に関し、市議会と市長の間の板挟みとなり、日々双方の意見調整に明け暮れて不慣れな仕事で悩んでいました。その間にも市の幹部として一般業務も当然のこととして対応していましたので激務が続いていました。そんな中、被告人Bからの依頼で認定こども園の工事が円滑に進むと考えたものであり、職務に忠実がための行動であり情状として考慮されたい。

[B被告弁護人]
寛大な判決を望みます。


 判 決 

主 文
A被告 懲役3年 執行猶予5年 追徴金40万円
B被告 懲役2年 執行猶予5年

理 由
被告人Aと被告人Bは、二人が6件の不正を繰り返していたことは、犯行態様は悪質である。また被告人Aが工事を円滑に進めようとして、被告人Bとの癒着に発展したとの弁護人の主張は、酌量に値しない。
しかし、二人は罪を認め、既に一定の社会的制裁を受けているため、執行猶予付きの判決とした。


 裁判の向う側 

今回の事件は、公務員がいとも簡単に、目先の「なあなあ」な関係で法を犯してしまうという、典型的な事例を示したのではないでしょうか。また、特に地方自治体の公務員は、世間のいろいろな誘惑に慣れていないということや、組織のトップにのし上がった人間が、いかに簡単に自身をおだて上げる周囲の誘惑に惑わされてしまうということを示す典型的な事件でした。

我々はしっかりと公務員の職務を見守っておく必要があると感じました。

被告人Aは、今回の事件で長年築き上げた公務員の経歴と廻りからの信頼を全て失うこととなりました。また、数千万円かの退職金も棒に振ることとなりました。

また、被告人Bの会社も今回の事件で、公共工事への参入は極めて難しくなり、民間企業もコンプライアンスに厳しいところからは、排除されることとなるでしょう。
今後も社会的制裁は続くこととなると思います。

今回のような事件は、逮捕された事実や判決の内容はメディアで報道されますが、被告人がどのような社会的制裁を受けているかという報道はありません。メディアはこのような内容も是非取り上げてほしいと思います。

行政も、これに係わる民間企業も、血税を扱っているということをしっかりと認識して、適正に取り組んでほしいと思います。

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