2020年5月21日木曜日

【裁判傍聴記】特殊詐欺「運び屋」被告人質問 犯罪の可能性は認識していました

被告人は、建設現場の仕事上の友人Aに紹介されたBから、闇バイトの誘いを受けました。被告人は後輩にこの闇バイトを紹介し、バイト当日は自分も後輩に付き添いました。バイトは、京都市内で封筒を受け取って、これを運搬して京都駅近くの道端のカラーコーンに入れるという単純なものでしたが、報酬は経費込で31万円でした。


罪 状 詐欺(特殊詐欺)
被告人 20代後半男性
求 刑 次回期日以降
判 決 次回期日以降

令和2年(2020年)5月中旬現在、新型コロナウィルスの影響で、裁判傍聴は自粛しています。本投稿は過去に傍聴したものを使っています。

今回の裁判は、被告人質問のみでしたので、論告・求刑以降の手続きは次回期日以降となりましたが、被告人質問だけでも特殊詐欺の手口の一端が分かって興味深いものでした。

特殊詐欺は掛け子・受け子・運び屋などパート毎に人を変えて役割を分担させ、それぞれのパートを分担する者同士は直接関わり合うことはなく、指揮をする者のみが各パートに指示をするというシステムを作っています。捜査の手が入りにくく、また万一どれかのパートがつかまっても、それぞれは指示を受けているだけで全貌を承知していないので、警察の捜査も困難なものになるようです。特殊詐欺は最近では、暴力団の資金かせぎに絶好のしのぎとなっているようです。

とは言っても、日本の警察の捜査能力は非常に高いので、特殊詐欺の末端のパートであったとしても、探し出されて逮捕されることとなるでしょう。特に昨今は特殊詐欺に対しては警察も検察も相当力を入れており、また裁判においても量刑決定では重い方に傾いているように感じられます。

新型コロナウィルスの影響で、生活がひっ迫してきている方もいるかと思いますが、今回の事件のように安易に闇バイトの甘い誘いに乗らないように、充分心しましょう。


事件の概要

平成30年10月〇日、被告人は友人Aに紹介されたBから、闇バイトの「物を運ぶ仕事」の誘いを何度も受けていました。被告人は仕事をしても本当に金がもらえるのか心配で、この仕事を引き受けることを躊躇していました。しかし、Bからしつこく誘いを受けましたので、この仕事を後輩Cに紹介したところCが興味を示しましたので、BにCが仕事をやると伝えました。その2日後Bから具体的な仕事の内容、「仕事は京都市内であること、日時は明日であること。」などの連絡があり、これをCに伝えました。

翌日、Cのことが心配になった被告人は、別件で出かけていた大阪から京都へと向かい、京都市内でCと合流して、Cの車で仕事の連絡を待って待機していました。

まもなくBから携帯に連絡があり、「▲時に京都市内某所の道路端で荷物を受け取った後、それを持って京都駅の近くが受け渡し場所となるので京都駅に向かえ。」と指示がありました。

京都市内某所で見知らぬ人物から封筒を受け取った被告人とCが車を走らせ、京都駅に向かっている途中今度は、「周辺を10分から20分車で回った後、京都駅の南の路地にあるカラーコーンの2つ目の下に荷物を入れておけ、終わればその場所を離れて次の連絡を待て。」と指示がありました。

Cは、京都駅近くの指定された路地にあった2つ目のカラーコーンの下に荷物を置いて、その場所を離れしばらく待っていると、Bから「荷物は確認できた。報酬を先ほどのカラーコーンに入れておく。」との連絡があり、Cがもう一度先ほどの路地に戻り、カラーコーンを持ち上げると封筒が入っていました。封筒の中身は、報酬30万円+経費1万円という明細書とともに、現金31万円が入っていました。

その後、この事件の特殊詐欺のグループのメンバーが逮捕され、捜査の手が被告人にも及び、被告人は特殊詐欺の共犯者の一員として逮捕されたのでした。

残念ながら、検察官の起訴状朗読と冒頭陳述を傍聴していませんので、事件の全体像が見えず、今回の特殊詐欺事件の被害額がいくらだったのかは分かりません。しかし、運び屋の報酬が30万円と高額であったことから推測すると、この特殊詐欺の被害額は数百万円以上であったと推定できます。

被告人は建設業の現場で働いており、前科があります。



被告人質問

弁護人
Bとはどういう関係ですか。
被告人
働いている建設現場の仕事仲間のAの友達で、Aから紹介されました。Aには前科があります。

弁護人
Bとはどのように連絡していますか。
被告人
誰が入れたか分かりませんが、アパートの部屋のドアポケットに携帯電話が入れてありました。その携帯電話にBから連絡の電話が入ってきます。

弁護人
「物を運ぶ仕事」とはどのように関わっていましたか。
被告人
Bからその携帯電話に数十回誘いの電話がありましたが、自分は昼間は建設業の現場で働いていますし、金がもらえるのか分からないので、本業を優先しました。

弁護人
Bからの連絡はどのようでしたか。
被告人
仕事の4日から3日前、短い時は仕事の前日に電話があって誘われました。仕事の報酬は10万円から20万円、30万円と巾がありました。

弁護人
今回の事件では具体的にどのようにやり取りがありましたか。
被告人
平成30年10月〇日(事件の日)の3日前に電話があって、数日間の内に仕事があるのでどうかという誘いでした。その電話をしている時、現場で一緒に仕事をしている後輩Cが居合わせていましたので、Cに仕事があって報酬が30万円から50万円位だと言ったら興味を示しましたので、荷物を取りに行って運んでほしいと頼みました。そしてBには電話でCがやると伝えました。

弁護人
「荷物を運ぶ仕事」があやしい仕事だとは思いませんでしたか。
被告人
多少疑問はありましたが、そんな仕事もあるのかなと思い、Bから他の者は40万円から
50万円稼いでいると聞かされ、そんなものかという感じでした。

弁護人
具体的な仕事の話はいつ連絡がありましたか。
被告人
前の電話から2~3日後にBから電話があって明日仕事があるということなので、Cに伝えました。そしてBから自分に渡されている携帯電話をCに渡すことと、時間と場所をCに伝えること、※テレグラムをCの携帯電話にインストールすることを言われました。そして、「明日の何時に何処へということと、持ち物」を指示されました。

※テレグラムとは、チャット機能に優れ、秘匿性の極めて高い通信ソフトで、メッセージやファイルも読んだ後に設定した時間後に自動的に消去できるなど、特殊詐欺グループの連絡手段として使われています。

弁護人
持ち物とは具体的には?
被告人
服装はスーツで行くこと、スーツに見合うバッグを持つことを言われました。

弁護人
事件当日の状況について教えてください。
被告人
10月〇日の夕方、Cは滋賀から車で京都へ行き、自分は大阪の用事をすませ、京都でCと合流しました。合流してCの車で世間話をしているとBから指示電話が入りました。京都市内某所で荷物を受け取った後、京都駅に行けというものでした。京都駅の近くで荷物の受け渡しをするとのことでした。

弁護人
その後どうしましたか。
被告人
京都市内の某所で見知らぬ人から荷物を受け取った後、「僕もついていくわ」と言ってCの車で京都駅に向かいました。京都駅に向かっている途中「京都駅の周辺を10分から20分車で回った後、京都駅の南の路地にあるカラーコーンの2つ目の下に荷物を入れておけ、終わればその場所を離れて次の連絡を待て。」と指示がありました。

弁護人
預かった荷物は何でしたか。
被告人
封筒でした。

弁護人
封筒の中身は何でしたか。
被告人
中身は見ていません。

弁護人
その後どうなりましたか。
被告人
京都駅の周辺を10分から20分車で回った後、Cが京都駅近くの指定された路地にあった2つ目のカラーコーンの下に荷物を置いて、車に戻ってしばらく待っていると、Bから携帯電話に「荷物は確認できた。報酬を先ほどのカラーコーンに入れておく。」との連絡がありました。そして預かっていた携帯電話もカラーコーンの下に入れておけとも指示されました。Cがもう一度先ほどの路地に戻り、カラーコーンを持ち上げると封筒が入っていましたので、携帯電話をカラーコーンに下に入れた後、封筒を持って帰ってきました。封筒の中身は、報酬30万円+経費1万円という明細書とともに、現金31万円が入っていました。

検察官
テレグラムは何のためにインストールするのですか。
被告人
連絡をとっていることを知られないようにするためです。

検察官
Aはどういう関係ですか。
被告人
Aは警察につかまったことがあります。自分も前科がありますので、お互いに火の粉がかからないように付き合っていました。

検察官
Cとはいつごろからの付き合いですか。
被告人
事件の1年くらい前に知り合いました。

検察官
Cに仕事を紹介したとき、危ない仕事かもしれないということは言いましたか。
被告人
Cも悪いことをしていましたし、仕事の前に「捕まりそうになったり、危ないと思ったら帰ってきてもいい」と言いました。

検察官
運んだ物が違法な物だとは思いませんでしたか。
被告人
急ぎの物の可能性もありますし、違法物の可能性もあるとは思っていました。

検察官
Bはどういう人物ですか。
被告人
Bとは電話で会話しただけで会ったことはありません。Aに貸していた金をBが返してくれました。

裁判長
携帯電話が部屋のポストに入れられていたのはいつですか。
被告人
事件の1年くらい前です。


本日の傍聴はこれまででした。


裁判の向こう側

今Twitterで「#運び」や「#裏仕事」と検索すると、闇バイトの募集と思しき怪しげないろいろなツイートが出てきます。中には「テレグラムできます」のコメントもあります。

今や特殊詐欺はSNS上では普通に飛び交っていて、一般的なことなのかなと錯覚してしまいそうです。でも違います。特殊詐欺は立場の弱い高齢者を痛みつける、人として最低で卑劣な犯罪です。今たまたま金がないというだけの安易な考えで、この卑劣な犯罪に加担することのないようにお願いします。

Twitterでは一方では、「#コロナ」と検索すると新型コロナウィルスの影響で解雇されたという人のツイートや、大学生で生活費が無くて苦しいというツイートがいっぱい出てきます。心配なのは、今の生活苦を特殊詐欺などの闇バイトでしのごうという考えに至ってしまうことです。今生活が苦しくても、卑劣な犯罪に手を染めることはどうかやめてほしいと思います。どうしても苦しい場合は、役所や福祉事務所、関係するNPO法人などに相談して打開策を見つけてください。

裁判の話に戻ります。今回の傍聴では被告人質問だけでしたが、被告人の話を聞いている限り、悪びれた様子はあまり感じられませんでした。被害者が見えていないというのもあるのでしょうが、質問に対し淡々と答えているという印象で反省や謝罪の色は感じませんでした。残念ですが再犯の可能性も高いでしょうね。これが特殊詐欺の特徴かなと思い、暴力団が目をつけるのも分るな気がします。

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