2019年5月19日日曜日

【裁判傍聴記】先生はストレスを抱えているんです。

事件はB市で起きました。被害者は20代前半の女性で、夜帰宅中に道を歩いていると背後から被告人が全裸で近づき羽交い絞めのようにして、胸を触り、股間の下着の中に手を差し入れて触るという事件でした。被害者が振りほどいて逃げて警察に通報した結果、被告人は強制わいせつ罪の容疑で逮捕されました。

京都地裁
公 判 強制わいせつ罪、公然わいせつ罪
被告人 40代前半 男性
求 刑 懲役3年
判 決 懲役3年 執行猶予4年


 事件の概要 

事件はB市で起きました。被害者は20代前半の女性で、夜帰宅中に道を歩いていると背後から被告人が全裸で近づき羽交い絞めのようにして、胸を触り、股間の下着の中に手を差し入れて触るという事件でした。被害者が振りほどいて逃げて警察に通報した結果、被告人は強制わいせつ罪の容疑で逮捕されたというものです。

被告人は、余罪として同様の強制わいせつ事件を他に1件犯しています。さらに被告人は未成年の女性が帰宅途中に歩いていると、背後から近づき全裸にブラジャーを付けた姿を見せるという公然わいせつ罪の余罪もありました。

被害者は、3件とも若い女性で、恐怖心と屈辱感から精神的に大きな傷を負っています。

被告人質問で明らかになっていますが、被告人は3年ほど前から逮捕・起訴されていないものの数件同様の余罪があると答えています。

被告人は犯行の動機は、仕事上のストレスを解消するためだったと自供しています。


 弁護側情状証人尋問 ・・・被告人の実兄

弁護人 
あなたは被告人が仕事上ストレスを抱えていることを知っていましたか。
証 人 
弟が中学校の教員で、仕事が厳しいことは聞いていました。問題児対応専門で、毎日遅くまで勤務し休日出勤も多かったと聞いていました。

弁護人 
被告人がストレスを抱えて悩んでいたとき、あなたは相談に乗りましたか。
証 人 
残念ながら出来ていませんでした。

弁護人 
今後は被告人の相談に乗るようできますか。
証 人 
私自身もですが、被告人の奥さんも支えていくと言っている。

弁護人 
被告人が今後同様の犯罪を犯さないための対策はありますか。
証 人 
性障害専門医療センターで治療を受けさせます。本人も同意しています。もう一つは、私がもっと密接に日々コミュニケーションをとります。

弁護人 
密接な日々のコミュニケーションは具体的にどうしますか。
証 人 
週1回被告人に直接会って対話し、状況を確認し問題点があれば解決します。


 被告人質問 

弁護人
あなたの身勝手な行動で被害者は心に大変深い傷を負っています。あなたはどう思っていますか。
被告人
償っても償いきれない罪を犯したと考えています。精神的に深い傷を負わせてしまい、大変申し訳ないことをしたと思っています。今後も許されるならお会いしてお詫びし、償いたいと思っています。

弁護人
何故このような行動になったのですか。
被告人
私は学校では担任は持たずに、問題児対応を専門に行っていました。この仕事は時間を選ばず、いつ収束するか分からない課題ばかりでした。職場でも家庭に帰っても仕事のことが頭から離れませんでした。そんな中、夜になると性的な衝動が起こり、女性をつけまわていました。

弁護人
あなたは今回逮捕されて、仕事や家庭はどうなりましたか。
被告人
中学校は懲戒免職になりました。教員資格は返上しました。家庭は妻と子供がいますが、妻は今後も支えてくれると言っています。妻には近所で、子供には学校で、私のせいでつらい思いをさせています。大変申し訳ない気持ちで一杯です。

弁護人
中学教員を懲戒免職で退職金はどうなりましたか。
被告人
当然支給されません。

弁護人
あなたは今後同様の犯罪を犯さないために、どのようにしていきますか。
被告人
兄や妻の助けを借りて、性障害専門医療センターで治療を受けていきます。兄や妻が支えると言ってくれているので、なんでも相談していきたいと思います。
教員はもうできませんが、真面目に働いて生きていきたいと思っています。


 論告求刑 

検察官 求刑 懲役3年


 被告人の最終陳述 

被害者の方に大変怖い思い、悔しい思いをさせてしまい、この先も心の傷が癒えることはないことを犯してしまいました。心からお詫びします。申し訳ありませんでした。

また、妻や子供や兄、そして周囲の方たちにも大変なご迷惑をおかけしたことをお詫びします。

この先は兄や妻の助けを得て、二度とこのような罪を犯さないよう生きて行きます。


 判 決 

主 文 
懲役3年 執行猶予4年

理 由 
犯行は仕事や家庭のストレスを発散するという身勝手な動機である。一方、被告人は罪を認め反省しており、実兄や妻も監護を約束している。よって執行猶予付きの判決とし社会での治療、更生に期する。

    
 裁判の向う側 

テレビや新聞その他のメディアでも、小・中・高校の先生の仕事は激務ということが報じられています。問題生徒や児童、子供の貧困問題、いじめ、モンスターピアレントと最近の学校は問題が山積しており、また一方で学校内での組織として、人事面での締め付けも厳しくなっていると聞きます。

先生はストレスを抱えているんです。 

昔は先生は聖職ともてはやされた時代がありました。子供たちに夢のある未来へ導いていくんだという崇高な思いで教職についた方も多いと思います。現実の先生の仕事は自分が夢見ていた世界と大きなギャップがあり、毎日が問題生徒への対応でヘトヘトになりながら、こんなはずじゃなかったと思っている先生が多いのではないでしょうか。

でもね、民間の会社勤めでも工事現場の仕事でも工場の仕事でも、こんなものですよ。
先生だけが厳しいのではないですよ。誰もがいろいろな問題を抱え悩み、客先で怒鳴られ悔しい思いをしながら働いているんです。

こんな身勝手な方法でストレス発散しないでください。それほどつらければ辞めればいいんですよ。確かに大学で教職課程をとって先生になったという自負や思いも分かります。でも、まだまだ若いのでなんとでも生きてゆけます。

被害者の方は拭うことのできない心の傷を負っておられる、ということをしっかりと噛みしめて、治療して更生してもらいたいと思いました。

性犯罪者の再犯率が高いといことはよく言われますが、出所後の性犯罪者を社会から隔離して性犯罪の再犯を防ぐということは現実的には不可能です。
性犯罪被害者のケア施設は聞いたことはありましたが、加害者を再犯させないための活動や治療を行っている施設性障害専門医療センターがあるというのを初めて知りました。このような施設を積極的に活用することで、性犯罪の防止・抑止になるのであれば、国は痛ましい性犯罪被害から性的弱者を守るために施設の充実・拡大に努めていただきたいと思います。

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