2019年5月22日水曜日

【裁判傍聴記】私は殴っていないと思います 摩訶不思議な事件

この事件は、被告人の証言によると、傷害事件の発生から3ケ月経ってから警察から連絡があり、「被告人が被害者を殴ってケガを負わせた」との容疑で任意での取り調べを受けたものです。
被害者は殴ったとする被告人とも知りあいで、目撃者も被告人の知りあいで、更に防犯カメラの映像もあるというのに、何故4ケ月も経ってからの取り調べだったのか。摩訶不思議な事件です。


罪 状 傷害
被告人 40代後半 男性

この事件は、被告人の証言によると、傷害事件の発生から3ケ月経ってから警察から連絡があり、「被告人が被害者を殴ってケガを負わせた」との容疑で任意での取り調べを受けたものです。

被告人は警察に対して、被害者を殴った憶えはないと言いましたが、警察からは防犯カメラに映っていると言われ、実際の防犯カメラの映像は見せてもらえませんでしたが、「防犯カメラに映っているなら殴ったのかもしれない」と供述したため、傷害の容疑で逮捕されたものです。

被害者は殴ったとする被告人とも知りあいで、目撃者も被告人の知りあいで、更に防犯カメラの映像もあるのに、何故4ケ月も経ってからの取り調べだったのか。摩訶不思議な事件です。

当日の法廷は、被告人質問でした。
前回の法廷で、被害者と目撃者がそれぞれ証言しましたが、傍聴できていません。


 事件の概要 

被告人の証言と検察官の質問を総合した筋書きで、書いています。

平成30年2月×日、被告人は駅の近くの居酒屋で一人だ酒を飲んでいました。生ビールを3杯飲み、その後焼酎を飲みました。しばらくすると酒の酔いで眠たくなり、そのまま眠ってしまいました。

その後、店員に起こされ店を出ました。駅に向かう途中で被害者と会い、そこで口論となって、被害者を殴りました。そのまま倒れた被害者の上に馬乗りになって、殴り続けました。
被告人が被害者を殴っている様子を見ていた目撃者がいました。被告人とも被害者とも共通の知りあいで別の店のママです。

被告人はその後、別の店に行きましたが、気が付いたのは次の日の朝、友達の家で起きたときでした。

翌朝被告人の身体や衣服に傷や乱れ、血の跡もありませんでした。ケガさせるほどに相手を殴れば自分の身体も痛み、血痕も残るでしょうがそれもなく、衣服の乱れもありませんでした。
このため被告人は、事件について5月中旬に警察から連絡があるまで何も知りませんでした。共通の知りあいからも何も聞くことはありませんでした。

被告人に前科はありません。


 被告人質問 

弁護人
平成30年2月×日の夜、被害者と会いましたか。
被告人
前日に会いましたが、暴力はありません。

弁護人
事件の当日あなたの行動は?
被告人
駅の近くの居酒屋で一人で酒を飲んでいました。生ビールを3杯飲み、その後焼酎を飲みました。しばらくすると酒の酔いで眠たくなり、そのまま眠ってしまいました。

弁護人
誰かに起こされましたか。
被告人
居酒屋の店員に起こされました。駅へ帰る途中で被害者が声を掛けてきたので、「帰るわ」と言って帰りました。

弁護人
次の店のスナックへ行ったと、証人が言っていますが?
被告人
憶えていません。

弁護人
事件当夜、被害者と会ってどうしましたか。
被告人
振り払って帰りました。次の日の朝は友達の家で起きました。

弁護人
次の日の朝、身体や服装に乱れはありましたか。
被告人
ありません。

弁護人
その後、知りあいから事件について話はありましたか。
被告人
ありません。

弁護人
被害者から話はありましたか。
被告人
ありません。

弁護人
酒は好きですか。
被告人
週5日のペースで飲んでいます。

弁護人
酒を飲んで記憶をなくしたことはありますか。
被告人
寝たことはあります。

弁護人
酒を飲んで暴れることは?
被告人
ありません。

弁護人
事件当日、何もしていないのですね。
被告人
10何発か殴ったのなら、自分の腕やこぶしにも何かしら残るだろうし、血も付くと思うが、何もありませんでした。

弁護人
警察から連絡があったのは?
被告人
何も知らないことで、何で出頭しなけれぱならないのか、不審に思いました。

弁護人
警察の調書の日付は6月〇日付になっていますが。
被告人
何のことを言っているのか分かりませんでした。

弁護人
警察での供述は?
被告人
警察で殴っているところが防犯カメラに映っていると言われて、「映っているならそうかも」と言いました。殴ったという記憶はない、暴力をしたという記憶もないとも言いました。

弁護人
被害者がうそを言っているとするなら、その理由は?
被告人
被害者と会う機会もないので分かりません。

弁護人
被害者との関係は?
被告人
居酒屋で数回の席が一緒になり飲んだ程度です。

弁護人
被害者は酒を飲むとどうなりますか。
被告人
他人にちょっかいを出すことがあります。
以前に、パトカーを何台か呼んだことがあるという話は聞きました。

弁護人
被害者は一方的に殴られているような人ですか。
被告人
そういうことはないと思います。一方的にやられる人ではありません。

弁護人
被害者が「被告人が俺の女にキスをした」と言っていますが?
被告人
そんなことはありません。

弁護人
目撃証人の妹と付き合いをしたことはありますか。
被告人
ありません。

弁護人
目撃証人は、被告人が被害者の上に馬乗りになって殴っているのを見た、と証言していますが?
被告人
馬乗りも暴力もありません。

弁護人
目撃証人は、あなたの彼女の姉と言っていますが?
被告人
目撃証人が何故そのようなことを言うのか分かりません。

弁護人
目撃証人に対してどういう思いですか。
被告人
事件当夜、目撃者に会ったかどうかも分かりません。
目撃証人は鮮明に憶えているのでしょうか。


検察官
事件のことを覚えていないのか、暴力していないのかどちらですか。
被告人
暴力を振るっていないと思います。

検察官
もめたかどうかも憶えていないのですか。
被告人
そのとおりです。

検察官
警察調書に防犯カメラにもみ合っているところが映っているとあるが?
被告人
殴っているとは書いていません。

検察官
被害者と目撃者の話が一致しているが?
被告人
その日は目撃証人に会っていません。

検察官
目撃証人のスナックにチョット寄ったのか?
被告人
憶えていません。

検察官
事件当時、女性との交際は?
被告人
当時は誰とも付き合っていません。

検察官
事件当時は前の彼女の家で暮らしていたのか?  前の彼女の家はどこにあった?
被告人
別れていたので一緒には暮らしていません。

検察官
前の彼女のことで、被害者がチョッカイを掛けてきたことは?
被告人
ありません。

検察官
目撃者の妹と付き合っていた時にトラブルがあったのか?
被告人
ありません。

検察官
目撃者の妹に暴力を振るったことは?
被告人
ありません。

検察官
目撃者の妹とは、いつ別れた?
被告人
平成29年の初めに別れました。

裁判長
被害者と会ったのは、事件当夜とこの裁判の法廷のみですか。
被告人
そのとおりです。その前も年に2~3回、居酒屋で会う程度です。

裁判長
この事件のことを知ったのはいつですか。
被告人
5月の中頃に警察から連絡があって知りました。

裁判長
事件当夜行っていた居酒屋へは、事件があった以降も行っていたのですか。
被告人
行っていました。

裁判長
警察の取り調べ以降はどうですか。
被告人
行っていません。

裁判長
被害者と目撃者の証言が一致しているのは何故だと思いますか。
被告人
分かりません。

裁判長
被害者と目撃者は関係があるのですか。
被告人
ないと思います。
口裏合わせもないと思います。

裁判長
事件以降、警察から連絡がくるまで誰かから本件について連絡がありましたか。
被告人
誰からも電話も、LINEも、何も連絡はありません。


論告求刑は1月後です。


 裁判の向う側 

この事件は被害者も目撃者もいて、犯行現場の防犯カメラの映像もあるという事件です。
これだけ証拠が揃っておれば、犯罪として速やかに立件できると思います。

警察は被告人を容疑者として逮捕取り調べできると思いますが、警察からの任意取り調べの出頭要請は事件の3ケ月後、実際に警察が取り調べたのは、まだその1月後という摩訶不思議なことになっています。

警察が3ケ月経ってから被告人を任意で呼び出したのは、防犯カメラの映像が不鮮明で断定できなかったのかも知れません。仮にもしそうであれば、警察の捜査にも問題がありそうです。
この事件で客観的な証拠となるのは防犯カメラの映像だけですので、もしこれが不鮮明で犯人を特定できないものであったとすると、検察は被害者と目撃者の証言だけの状況証拠のみで起訴したことになり、問題が残ります。

被告人の態度もあいまいで、摩訶不思議です。警察で被告人が殴っているところが防犯カメラに映っていると言われて、「映っているならそうかも」と言ったと供述します。
事件当夜の行動も憶えていないと供述します。目撃者の妹との関係も弁護人と検察官の質問で供述が変わりました。

勝手な想像ですが、事件の背景には痴情のもつれがあるのでは、と思います。

いずれにせよ、被害者も目撃者も一体何がしたいのでしょう。被告人はどうしたいのでしょう。

摩訶不思議です。

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